「GENERATORS」(UHAUHA MUSIC UM0003)
シワブキ
これは素晴らしかった。ひとことで言うと「かっこよくて心地よい」。ピアノの山口コーイチのレーベルだと思うが、地底レコードのカタログに含まれている。山口さんといえば、私としては真っ先に思い浮かぶのは川下直広カルテットで、山口さんが入ったライヴを二度ほど見たことがあるし、「初戀」は名盤だった。あとは渋さ。しかし、ここで演奏されているのは私の山口さんのイメージとはやや異なった完全即興である。もともとは山口コーイチとドラムの磯部潤のデュオとしてはじまったユニットだそうだが、そこにギターの加藤一平が加わってトリオとなり、今回のレコーディングとなったらしい。しかし、聴いたことがないのでこれは想像だが、デュオだったときと現在ではかなり音楽性が違っているのではないかと思う。というのは、このトリオにおいて加藤一平の演奏がめちゃくちゃ重要なポジションのように聞こえるからだ。たとえば1曲目のはじめのほう、ピアノのゴーン、ゴーン……という一定のリズムとそれにからむ同じくピアノの旋律の裏で、ギターが小さい音でかなりいろいろと企みを遂行しており、それがめちゃくちゃかっこいいし、ピアノが饒舌にしゃべりはじめても、その影でさまざまな「悪さ」を仕掛けていて、そういう箇所は我々リスナーにとって「即興を聴く喜び」に満ちているのだ。磯部潤のドラムは基本的にはリズムに加えてビートを提供しているので、全体がまとまっていて、そういうあたりが爆走系というか暴走系というかいわゆる昔ながらのフリージャズに比べてぐっと引き締まった感じに聞こえるが、その自由度はとてつもなく、聴いていると「ふわーっ」という感じで宇宙に投げ出されたみたいな浮遊感を味わうことができるのだ。といって、これもよくありがちの、まったりというかほっこりというかゆったりというか、そういう即興ではまったくなくて、どちらかというと、ビシッと筋の通ったヤバ目の即興で、全編凛としたテンションが持続しているのに、なぜか聴いているとリラックスできてしまうのだから、音楽は不思議だ。山口のピアノが率先して場面をどんどん変えていくし、一定のところにとどまっている時間は短いのだが、三人それぞれのその場の考え、というか、なにがはじまってそれがどう発展・展開し、どういう風につぎが出現するか……みたいなことがリスナーに一切隠されることなく「この場」で行われている、というのが感動なのだ。即興だから当たり前でしょ、という意見もあるかもしれないが、そんなことないんです。それに、これ以上人数が増えると、なかなかそうはいかない。客のまえで一からはじめて終わりまで全部見せる……ということが可能なのはトリオぐらいまでかもしれない。でも、これは「インプロ」とはずいぶん違って聞こえる。三人ともジャズミュージシャンが活動の基本だからだろうか。グルーヴもあるし、適度なノイズもあり、メロディというかフレーズもあるし、けっこう過激な部分もあるのだが、聴き終えた印象は「ああ、いいジャズを聴いたなあ」というものなのだ。ピットインの聴衆のまえで行われたパフォーマンスを切り取ったこの演奏は、本当にこの三人からのすばらしい贈り物だと思う。三人ともめちゃすごいです。これこそ快楽音楽。ゴンチチのつぎにこれがかかってもおかしくないぐらい。便宜上三曲ということになっているが、たとえば一曲目は33分のなかに山あり谷あり崖あり雪崩ありお花畑あり川あり山小屋ありで、とにかく起伏に富みまくっているわけで、アルバム全部を通して1曲とみなすことだってできる。切れ目にはとらわれないで、何度も何度も聴くことをおすすめします。私ももうこれで6回聴きましが、おもろいなー、ぜったい飽きへんやろ。というわけで傑作でした。「シワブキ」というバンド名がとにかくかっちょええし、「咳」と大きく書かれたCDデザインもすばらしい。マスタリングは吉田隆一さんでした。
「AFURELI」(UHAUHAMUSIC)
KOICHI YAMAGUCHI TRIO
落合康介、林頼我という若さあふれるベースとドラムとのトリオ。一曲ずつ評しても仕方がないか、とも思うのだが、曲調がそれぞれちがうので簡単にコメントしたいと思います。一曲目は超かっこいい曲。出だしもかっこいい。ピアノの弦を弾いたり、パーカッション的なものを叩きまくっているのか、とにかく聴いていて興奮の坩堝になる。ラストは唐突に終わる。2曲目はバラード的にはじまるが、ベースとドラムとのからみあいがあまりにすばらしいので、「こういうのってなんていうんだっけ。――そうそう、「ジャズ」だった」と思ったりした。これも唐突に終わる。3曲目はフリーで、川下カルテットや渋さでもよく耳にするこのひとの側面だが、いやー、めちゃくちゃかっこいいですね。ピアノが重いというか軽々しくないというか……ナイフで切りつけるというより斧でぶった切るような壮絶な感じがある。これも唐突に終わる。そういう趣向なのか? でも、自然発生的な展開なのですごく納得。4曲目もバラード。力強いのだが、そういうくっきりした表現のなかで、幽玄の世界にまで到達している。ゴツゴツした、美しいフリーなバラード。もしかしたら本作でいちばん好きかも。5曲目はノイズではじまる、わくわくする演奏。ずっと最後までそれを貫く。6曲目は真っ向勝負のフリージャズ的な演奏で、「森のなかでの戦い」という意味深なタイトルがついている。演奏が進むにつれてぐいぐいとハードになっていき、聴いていて手に汗握る。7曲目もフリージャズ的な即興で、6曲目の姉妹編(?)のような趣。とにかくピアノの左手が重く、ずしんずしんと響き渡って個性を示す。ラストはこれも突然終わる。8曲目は落合によってモリンホールというモンゴル系の弦楽器で、馬頭琴的とほぼ同義の二弦の楽器がフィーチュアされる即興。9曲目もおそらくこの楽器を使った演奏でじつに濃密でスピード感があり、ひたすら快感である。モリンホールの音色はじつに色っぽく、つややかだ。10曲目は、落合がなにか(たぶんコントラバスの弦)をこすって低く力強いノイズを出している。そこから美しいアルコになり、幽玄なメロディが周囲に煙のように漏れ出ていく。めちゃくちゃいい。そこからピアノが主体の演奏になり、これもしみじみかっこいい。音数少なく、鋭く引き締めるドラムもすばらしい。実によく完成された演奏で、聞き惚れました。ラストの11曲目は本作でいちばん長尺の10分を越える演奏で、フリージャズ的な即興。最後を締めくくる「たっぷり」な感じで山あり谷ありというかドラマチックな一曲。後半ビートが強調されるあたりからは滝が滝つぼに落ちていくようなまっしぐらの怒涛の展開。
いやー、まさに重量級。完璧なトライアングルで、その一体感、奏者間の無言のやりとりはオーソドックスなピアノトリオと同等、いや、それ以上にジャズ的なスリルにあふれているので、普通のジャズ好きにもおすすめ。全然、アヴァンギャルドというか、はみ出した感じはなく、ただただ「ひーっ、かっこいい!」と叫びながら聴けます。傑作!