「DUOLOGUE」(AUM FIDELITY AUM048)
ERI YAMAMOTO
久しぶりに聴き直して、こんな凄いアルバムだったのかと瞠目した。これがピアノトリオフォーマット以外での初リーダー作ですよ、皆さん、どう思いますか。どう思いますかってきかれても困るわな。というわけで、これは傑作です。今は亡きミムラさんが推薦してくれたのだ。ミムラさんの店の客はジャズファンといってもほとんどがピアノトリオを買う客で、毎月、出るピアノトリオを全部買っていくひともいたそうだが、そういうなかで「これは山本恵理ゆう子のアルバムなんですけど、うちのお客さんはこういうのは聴かへんねん。田中くん、どう?」そう言われて、なんとなく一種の挑戦状を叩きつけられたような気になり、ベースがなんとウィリアム・パーカー、ドラムがなんとハミッド・ドレイク、サックスがなんと(もういいですか)ダニエル・カーター……というサイドメンに心引かれて購入したのだ。で、聴いてみてびっくりした。そういった猛者を相手に、完全に自分のペースで演奏を行い、しかもどの曲もすばらしい輝きに満ちている。いやー、参った参った。全編デュオなのだが、一曲目のドラムとのデュオでまずやられた。瑞々しい演奏で、いわゆるジャズ的なスウィング感もあるのだが、しかも、ストイックな美意識で貫かれている。2曲目のダニエル・カーターのアルトとのデュオは静謐で、幻想的な演奏。これも、ぴーんと張りつめたテンションが持続するが、だからといってしんどい音楽ではなく、逆に楽しい。3曲目はウィリアム・パーカーとのデュオだが、4ビートのバップ的な曲。普通のジャズのフォーマットで進行するのに、どちらが主でどちらが従ということではなく、ピアノはピアノとして、ベースはベースとしての役割を果たしながら、めちゃめちゃ絡み合う。テクニックのなかに無骨な響きもあり、パーカーのベースも炸裂しており、これは美味しい! 4曲目はハミッド・ドレイクのパーカッションとのデュオで、一転してプリミティヴな響きの演奏。アフリカというか中近東というか、とにかくエキゾチックなリズムとメロディがスピーカーから蜜のようにこぼれ落ちてくる。蜜は滝になり、周囲を埋め尽くす。ああ、快感。ドレイクのパーカッションも、まるで滝のようだ。5曲目はダニエル・カーターだが、今度はテナー。2曲目と同じく静謐なバラードで、カーターのいびつな美しさをもった独特のフレージングにぴったり寄り添い、ときには先を示唆するようなピアノはほんとうにすごい。カーターは、「音色」を十分に意識したソロを行っていると思う。けっこう長尺の演奏だが、ダレません。6曲目は7拍子のブルースで、ドレイクのパーカッションとのデュオ。パッと聴くと、ブギウギやストライドピアノっぽいノリノリの演奏だが、それが7拍子というところがミソか。ドレイクのパーカッションも躍動的なリズム空間を作り出している。後半ピアノがどんどん盛り上がっていき、いやー、タダモノではないな、このひとは、と思う。7曲目はパーカーとのデュオだが、もの悲しさのあるシリアスな演奏。ベースが大きくフィーチュアされる。8曲目はフェデリコ・ウギーのドラムとのデュオで、1曲目と8曲目がこのドラマーとの演奏ということで、全体をサンドする構造。小気味よいブラッシュワークがばしばし決まり、ものすごく気持ちいい演奏。マイナーの、ぴちぴち跳ねながらグルーヴする感じの古いジャズっぽい曲で、めちゃかっこいい。山本恵理は、完全に自分の個性を出しながら、そして、相手の個性も100パー出させたうえで、自分の音楽に練り上げていくことができる真のリーダーシップを持っているし、相手が「めちゃくちゃ凄いひとだ」とわかるように、共演者を引き立てることも忘れない。このアルバムはジャズ史に残るかどうかはわからんが、私の歴史には完全に残る、それぐらい凄いと思いました。あと、作曲の才能は半端ない。もちろん全曲オリジナル。すげーっ。だいたい、オームから日本人のアルバムが出るというだけで、じつは興奮するんですけどね。「コバルト・ブルー」というアルバムも持っているはずだが、どこに行ったのか今行方不明です。