「ノーコン」(INNOCENT RECORDS ICR−022)
山本精一&内橋和久
大傑作。冒頭の一発目の音から魂を持っていかれ、あれよあれよというちにまるまる一枚聴いてしまう。凄い。世界的二大ギタリストが完全に対等にがっつりデュオを行った記録。すばらしいエンターテインメントですばらしい音楽。あまりに良すぎて、今はこればっかり聴いてる。ふたりの個性のちがいもはっきり出ているし、即興なのにメロディ、リズム、ハーモニーという音楽の3大要素はもちろん、音楽のあらゆる要素が詰まっている。ノーコンというタイトルだが、めちゃめちゃコントロールされているように聞こえるし、スリルもたっぷりある。ノーコンどころか、このふたりはテレパシー交感してるんじゃないかと思うぐらい、魂のレベルで一体化している。これはもう極楽、天国、ニライカナイの音楽といってもいいんじゃないか。いや、無人島に持っていく究極の一枚が決定した、と叫んでもかまわんぐらい惚れている。いやー、こらすげーわ。聴いていないひとはただちに聴くべき。内容についてはあえてなにも書かないが、フリーインプロヴィゼイションとかノイズとかちょっとなあ……と敬遠する必要は微塵もない、ただの凄い音楽。なーんだ、ギター2台で音楽ってすべてできるんじゃん、と思った。えぐいぐらいすばらしいです。なお、プロデュースその他は内橋さんなのだが、対等のデュオと思われるので、便宜上先に名前の出ている山本精一の項に入れた。
「THE GUN」(DOUBTMUSIC dmf−123)
NAMBA JAZZ
めちゃくちゃ好きなアルバム。折に触れて聞き返しているが、そうか……出たのはもう10年以上まえか……(今度、復活するらしい)。芳垣安洋と山本精一のデュオライヴ。ここでいう「ナンバ」とは、大阪の難波のことではなく、右手を出すと同時に右脚を出し、左手を出すと同時に左脚を出すいわゆる「ナンバ歩き」のことである。どういう気持ちでこんなバンド名をつけたのかはわからないが、聴いていると、たしかにバランスよくまっすぐに歩いているのではなく、ぎくしゃくとしながらひょこひょこ進んでいくようなイメージが頭に浮かぶ。ラクダはこういう歩き方で、だからラクダの背に乗って旅をすると船酔いみたいになる……という話を聞いた覚えがある。ナンバ歩きという言葉から連想するように、きっちりしたビートではなく、ちょっと崩れかけているようなガラガラしたビートで、しかもめちゃくちゃパワフルでノリがいい。ちょっと後ろから押すと崩れてしまいそうなビートのうえになりたつ虚構の演奏。このぐらぐらとした巨岩のようなリズムの合間あいまを芳垣が埋めていくような感じは、たとえば最盛期のカウント・ベイシーのドラムのようでもある(なんのことかわからん? そらそうでしょう)。すべてインプロヴィゼイションだと思うが、内容はもちろん、各曲のタイトルの付け方や曲順の漢数字、ジャケットのデザイン(ひょうたん型の切り抜きとかすごく凝っています)なども最高である。ふたりの即興演奏家それぞれの最高のところが出ており、それが混ざり合い、溶け合い、刺激し合って爆発する。こういうのを聴いているのがいちばん楽しいなあ。心を遊ばせてくれるうえ、ノリノリの部分も、突拍子もない部分も、穏やかでワビサビの部分もあり、これこそジャズではないか、というよくわからない気持ちにさせられたりする。正直言って、「ジャズ」という名前をついているものの、まったくジャズではないこの演奏にジャズを感じてしまったりするのだから音楽というものは面白い(まるでそういう感じでない部分で「スウィング感」を感じたりする)。なお六曲目の「陰文」というのは「いんもん」もしくは「いんぶん」と読み、石や宝玉への沈み彫りのことだそうである。こういう演奏を聴くと、即興とかコンポジションとかそういった区別なんかどーでもえーよなー、という気持ちになる。それにしても、全10曲、1曲ごとに異なった演奏が展開されるこの蓄積はなんだ。ふたりの即興演奏家がこれまでにそれぞれ培ってきた膨大な経験、アイデアなどなどがぶつけられることによってこの危うい均衡の美術品がなりたっているのだ。あまりフリーリズムにならず、はっきりしたビートがあるうえでの即興だが、いやー、かっこいいですねー。生々しい録音も臨場感があってすばらしい。傑作。対等のデュオだと思うが、便宜上山本精一の項に入れた。
「大友良英←→山本精一←→芳垣安洋」(FMNDM−001)
大友良英 山本精一 芳垣安洋
3曲入った特典CD−Rで、たぶん「ナンバジャズ」の特典ではないかと思う。1曲目は大友〜山本のギターデュオで緊張感のあるすばらしい即興。この緊張感がずーっと持続するのだからすごい。なんというか「山あり谷あり」というようなドラマチックな展開はなく、ひたすら淡々と、しかしテンションは維持して純粋な即興がつむがれていく。2〜3曲目は「ナンバジャズ」の残りテイクで山本〜芳垣のデュオだと思うが、いかにも疾走感のある最高の演奏。本編に負けず劣らずのクオリティの演奏なので、ぜひ聴いてほしいと思います。