koichi yamazaki

「SERENITY」(AKETA’S DISK PLCP−74(AD−56CD)
山崎弘一カルテット

 山崎弘一といえば日本を代表するベース奏者と思っているし、実際生でなんども見たときに、サポーターとしてだけでなく、ベースソロのシャープさにもすっかり魅かれた(昔はなんだかんだと見る機会があったのです)。しかし、私が見た演奏はいずれも中央線ジャズ的なグループばかりだったので、なんとなくそういうイメージでいたのだが、よくよく考えてみると、エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンなんだよなー。すごいよなー。というわけで、本作はその山崎さんのリーダー作だが、テナーに高橋知己、ピアノに米田正義、ドラムに飯野工という、いかにも中央線ジャズ的なメンバー、しかもかなりオーソドックス寄りの面子だが、これだってよく考えてみたら、半分はジャズマシーンのメンバーである。はたしてどんな演奏なのかと思って聞いてみると、やはりというか、まったりとした極上のハードバップでありました。高橋知己のテナーもゴリゴリしたブロウとは対極の、柔らかい、抑え目の音色でバップフレーズを紡いでいく感じで、しかも、テクニックを見せつけることはせず、地味ながら説得力がある。噛めば噛むほど味わいの出るスルメタイプの演奏。ピアノまたしかりで、フレージングがはっきりわかる、つまり、粒立ちのいいピアノなのだが、それは音と音との間隔のリズムがきっちり弾ける(団子にならない)ことであって、そういうピアノも案外多くない。これだけフレーズが聞こえてくると管楽器を聴いているような気分でピアノが聴ける(わかりにくいでしょうか)。このふたりのソロイストをぐいぐい押し出すわけでも絡み倒すわけでもなく、じつに「ええ塩梅」にサポートするのがリーダーである山崎弘一の役目で、それこそこのひとがいちばんこのアルバムにおいてやりたかったことなのだろう(ところどころにあるソロも実にいい感じです)。ドラムも、たとえば6曲目のブラッシュソロなどを聴いてもわかるが、堅実で心地よくスウィングしている。選曲も、高橋知己の曲が2曲、あとはスタンダードなどで、山崎のオリジナルは一曲もない。それを「意欲的でない」などというのはもちろん大間違いである。タイトルの「セレニティ」は「イン・ン・アウト」に入ってるジョー・ヘンダーソンのバラード。個人的には、ポール・チェンバースの「ヴィジテイション」をやってるのがうれしかった(もちろん、チェンバースというよりサム・ジョーンズ・バージョンが好きなのです)。ただしフェイドアウト。派手さはないが心に染みる、まさにアケタズ・ディスクの面目躍如的な好アルバム。私としては、たとえば川下直広とのデュオアルバムなどに山崎さんの神髄があるように思えていたが、いやいや、こういうアルバムもいいっすねえ。