tatsuo yanagihara

「FIRST IMPRESSION」(MAY RECORDS/地底レコード MRCD−1003)
エスパソ

(おそらく)ベースの柳原たつおがリーダーで、ほかにテナー〜ソプラノの青木秀明、ギターの小野寛史、ピアノの石田幹雄、ドラムの上村計一郎というクインテット。アルバムとしては三枚目(15年ぶり)だそうで、ギターは今回がはじめての参加らしい(内ジャケットのGuiterは誤記)。第1作「朝朗」と第2作「音節」のサックスは立花秀輝で、ピアノとドラムも今回とはちがう(3作とも「ロング・ショート・ストーリー」という曲が入っている)。つまりは新生エスパソ第一弾ということかも。聴いてみると、めちゃくちゃよかった。まず、曲が全部良い。そして、ミュージシャンも全員良い。だれかひとりが突出したりすることなく、五人ががっちりスクラムを組んで対等に力を発揮している。全体に感じられるのは、良質の現代ジャズではあるのだが、どこかしら私好みの70年代ジャズ(スピリチュアルジャズとかあのへん)の雰囲気も感じられ、丁寧でパワーあふれる、ほんまにかっこええ演奏ばかりであった。1曲目はピアノが出すシンプルなタンゴっぽいリズムとアルコベースのノイズによるイントロから全員が入ってくるところの思わせぶり(?)な感じにまずやられる。5拍子なのだが、ものすごく自然で、すごくいい音のテナーがじっくりと歌いあげていく。このあたりでもう、このアルバムが傑作だと確信していた。ギターソロも同様で、一音一音がしっかりとリスナーに届く。ピアノは、石田幹雄が鍵盤のうえで忘我の表情で弾いているのが目に浮かぶようなソロ。ソロは全員短いが言いたいことを言っているので満足。ええ曲や。テーマに戻ってからの絡み合いもすばらしく、フェイドアウトが惜しい。2曲目は3拍子でサックスがソプラノを吹く哀愁の曲だが、最後のところのメロディーが微妙にひねってあってかっこいい。それは当然アドリブにも反映するわけで、ソロイストの腕の見せ所である。ソプラノ→ギター→ピアノと、いいソロが続く。ええ曲や。3曲目は本作で唯一柳原さんの曲ではない(ギターの小野さんの曲)。これもいい曲。テナーのメロディの吹き方がかっこいい。テーマが終わるとフリーっぽいパートになり、そのあとドラムソロになってテーマ。4曲目もまたまた哀愁の曲で、作曲者の好みなのだろうなあ、でも帯にあるような「ジャズ演歌」には感じられない。もっと異国の民族音楽的なものを感じる。ソロはギターとピアノでしみじみ歌い上げる。最後は、そっと消えていくようなエンディング。5曲目はハードバップ的なイントロからドルフィー的なテーマがラテンっぽいリズムに乗る。タイトルも意味深。かっこいいベースソロが長くフィーチュアされたあとテナーとピアノが短いながらもバシッとソロを決め、そのあとテーマ。6曲目はベースのオスティナートからピアノのゆるーいリズムのすごいソロになり、あー、これはええわ、極楽や……と思っているといきなりビートが入ってきて熱いテナーソロになる。このあたりの緩急もいいですね。このテナーソロは最高で、あー、すげーっ、もっと聴きたい……と思う。関西でライヴがあったらぜったい行くだろう。7曲目は現代ジャズっていう感じのコンポジション。テナーソロのあとのギターシンセのソロがなかなか過激ですごくハマッている。その熱量のままピアノソロに雪崩れ込み、ストレートなソロながら「おーっ!」と拳を突き上げたくなるような熱い演奏。そして、至上の愛かよ、と言いたくなるようなリフとともにドラムソロ。そこからの展開もいいっすねー。8曲目はこれも哀愁の(そればっか)曲で、イントロ的なベースソロのあとテナーが、ほんまええ感じの力の抜け方でテーマを吹く。歌いまくるギターソロから、いやー,これは美味しいなあ、という感じのテナーソロになる。ラストのテーマの即興アンサンブルも最高です。9曲目はバラード(しかもマジなやつ)で、テナーのテーマの奏でかたもすばらしい。聞き惚れる。ピアノソロは珠玉。何遍聴いても「はー……」となる。10曲目は前2作にも入っていた「ロング・ショート・ストーリー」。テーマだけの短い演奏。ラストの11曲目はタイトル曲で、アップテンポのまさにハードでシリアスな曲。激しいテーマのあと三拍子のリズムを鍵盤に叩きつけるようなピアノソロになる。リフのあと、4ビートの激情的なテナーソロになる。グロウルも駆使して、超かっこいいソロ。ライヴだったらもっと延々吹いてくれるはずなので……あー、ライヴ観たい! ギターソロもいいっすねー。ドラムソロは真っ向勝負。そこからテーマに戻る感じなど、「ジャズ」っていう空気感そのもので、こういうのが好きなのである。あー、すばらしい演奏だった。もっかい聴こう。……という風に入手以来、何度も聞いているのだが、なかなか感想が書けない。というのは、これが2019年の日本のジャズであることと、そこにあふれている現代ジャズの感覚と、いわゆる伝統的なホットなジャズのスピリットがどのように同居しているのか……が私には書けなかったのである。しかし、「まあ、ええか。めちゃくちゃええジャズということで……」というようなざっくりした感じでレビューを書いてしまったが、いいのか。傑作!