tatsuya yoshida

「UHRFASUDHASDD」(TZADIK TZ7265)
HAINO KEIJI/YOSHIDA TATSUYA

 ひぇーっ、めちゃめちゃかっこええ!これってもしかしたら私がずっと求めつづけてきた理想の音では……と一瞬思ってしまったほどかっこええ。もうどうにもならんぐらい好き。ヴォイスもすばらしい。あー、恍惚。こういう音は、物心ついたころからずっと私のあたまのなかで鳴っている。内橋さんのソロ、巻上公一……そういったひとたちの音楽とも共通するが、生まれたときから、ほかのひとには聞こえていないが自分にだけ聞こえているような頭蓋骨のきしみのように、私にとって心になじむ演奏だ。というか……こういう音楽をやりたいなあ。ほんとうをいうと、この手のノイズは苦手なのだが、ときおり、苦手どころか心にぴったりはまるノイズがあって、それはたぶん私の頭のなかでずーーーーーーーーーーーーーっと鳴っている音なのである。内橋さんのソロもそうだが、このアルバムも私はそうだと確信した。何度も何度も何度も何度も繰り返し聴きたいすばらしい演奏だと思う。これが即興だとかそんなことはどうでもいい。とにかくすばらしいです。なお、対等のアルバムだと思うが、吉田さんがプロデューサーなので、吉田達也の項に入れておく。

「SORITIES PARADOX」(MAGAIBUTSU LIMITED MGC−38)
MAKIGAMI KOICHI/SHIMIZU KAZUTO/UCHIHASHI KAZUHISA/YOSHIDA TATSUYA

こんなアルバムが出ていたことすら知らなかった。ライヴで、巻上さんがベースを弾いている。吉田達也さんの曲が4曲、あとは即興で8曲。しかし、コンポジションのあるもののそうでないものもどちらもめちゃめちゃかっこいいし、そういう分け方がほとんで意味のないタイプの演奏であります。じつは買ってから一週間ほど、こればっかり一日に何度も何度も聴いて、すっかり耽溺してしまった。これはすばらしいアルバムだと思いますです。ジャズからロックから民族音楽からなにからなにまで、メンバーがこれまでに体感してきたさまざまな音楽の要素がぶちまけられ、どんどん場面が展開し、信じられないような高みにまで連れて行かれるかと思ったら、崖から突き落とされて奈落へ転がり落ちたり、暗闇を明かりなしで彷徨させられたり、スキップしてお花畑をかけたり、喉元にナイフをつきつけられたりと、ほんとに楽しくて苦しくて悲しくてわくわくする音楽の冒険を体験させてくれる。聴いていて、やっぱりこれは巻上さんのヴォイスが鍵だな、と思ったり(ひとの声というものは、すごいもんだなあと巻上さんを聴くたびに再認識するのです)、いや、ドラムか、と思ったり、ちがうな、じつは内橋さんだな、とか、清水さんだな、とか聴くときによって「演奏に鍵を握ってるひと」が変わってくるというのもかなり変だ。つまりは4人それぞれが均等に重要だということなのだろうが、それでも聴いていると、あ、このひとが……と思ってしまうのだ。それは、毎回、べつのひとに焦点を当てて聴くという聞き方ができるということであり、この演奏の超ハイレベルさを物語っているのだと思う。あまりにも自然な即興なので、さっきも書いたが、コンポーズとか即興とかどうでもよい。聴いていると、かなり過激なサウンドにもかかわらず、まるでゴンチチでも聴いているように、ぼーっとしてしまう。脳内物質が出まくっているのか、アホみたいに心地よくなってしまうのである。まあ、そんなことはどうでもいいから、とにかく聴いてみてほしいのです。いやはや、めっちゃかっこええ。今また聞き直しているが、とにかく死ぬほどかっこいい。よくぞ録音していてくれた、よくぞCD化してくれたといろんな方面に感謝したくなるような、そんな音楽の玉手箱であります。なお、だれがリーダーかわからないが、アルバムの成立から考えて、吉田達也さんの項に入れた。

「ルインズ+内橋和久」(F.M.N.SOUND FACTORY FMC−028)
ルインズ+内橋和久

 2001年のスロヴェニアでのライヴ。冒頭いきなりギターの激しいカッティングから、リスナーはぼんやりしている暇もなくこの強烈なエネルギーと狂気と驚喜と凶器に満ちた演奏のまっただなかに放り出され、あとはあれよあれよと転がされていく。その転がし方があまりにめちゃくちゃなのでこっちはアバラが折れたり、目玉がひっくり返ったりたいへんな目にあうが、一方では肩こりが消えたり、胃腸がすっきりしたり、花粉症が治ったりする。まあ、快感ですね。快感が1曲目の冒頭の一音目からラストまで切れ目なく続く。これだけ快感が続くと飽きてしまうかというとそうはならないのが凄いところで、手を変え品を変え……なのでついつい前のめりに聞き入ってしまうのだ。ライヴでなあ……すごいクオリティだよなあ。パワーはもちろんものすごいのだが、このハイテンションがずーっと持続し、しかも、ここぞというところでもっとボルテージが上がり、畳みかけるように爆発が来る……というのは人間技とは思えない。気合いだとかノリだとかいうけど、やっぱりとんでもない技術力と音楽性なのだと思う。吉田達也の、なんつーかこの、粘っこくない、潔いドラムが、ものすごく深い、底なし沼というか深海のように深い感じがして、ちょっと怖いんだよねー。くねくねくねくねくねくね……と弄り回すようなギターのフレージングも怖い。3人の相性も抜群すぎて、これもまた怖い。怖い快感なのだ。傑作。

「ROOT」(DOUBTMUSIC DMF−173)
TATSUYA YOSHIDA & DAIRO SUGA

 これ、毎日聴いてるんだよねー。ドラムというのは最強、最凶の楽器かと思っていたが、このアルバムを聴くと、ピアノもタメを張るぐらいエグい楽器なのだった。そんなことはずーっとまえから知ってたよ、というひとも、このアルバムを聞くと、ひっくり返るのではないか。スガダイローも吉田達也もすげーミュージシャンだが、このふたりが組むと、世界的というより宇宙的なとてつもない演奏になる。これは比喩とか冗談で言ってるわけではなく、マジもマジ、大マジですのでよろしい。キングコング対ゴジラというより、キングコングとゴジラが共闘して人類を襲ってきたような凄まじい演奏。こういう圧倒的な演奏を聴いてしまうと、言葉の無力さを痛感する。こんなもん、言葉であーだこーだと説明できるわけねーだろ! と思う。しかし、それは我々言葉で飯を食ってるものとしてはなんとかこの凄まじさを表現したいと思うのだが、……無理! これは聴いてもらうしかないのだ。もーしわけない。3曲目にして吉田達也のヴォイスが登場するが、なんの違和感もないなあ。「これはこういうものだ」「正しい場所にある」としか思わない。すばらしい。壮絶な即興オペラ。たったふたりかよ! ピアノの低音が不気味に進行し、ドラムが爆裂しまくるえげつないとしか言いようがない4曲目(もっとも長尺の演奏で聴くものもとてつもないパワーを受け止めなくてはならない。最後のリス(?)に至る展開のかっこよさは筆舌に尽くしがたい)や、5曲目は吉田がブラッシュ……というバラードではじまるが、なんだかわからないうちにノリノリの展開になっていく……これが不思議なんですよね。吉田のヴォイスが炸裂し、ビートがどんどん速くなる快感。最後はリフをバシバシ合わせてエンディングだが、なんとなく魔法にかけられているというか翻弄されているというか、「音楽的詐欺」にあっているような感じである。とにかく聴き手が思っているような展開には一切ならない。6曲目はドラムのストイックで激しいビートとピアノの左手のベースと右手の和音、吉田のヴォイス……などが過激に入り混じる。聞いていると身体をだれかがぐいぐい持ち上げてくるような感じで、ひたすら楽しい。後半のスガダイローのピアノが爆走し、ドラムが空間をぶちのめすような激熱のドラミングで答える。ひえーっ、すごいすごい! 6曲目はピアノの単音(2音?)のリズムが延々と続き、そこに現れる微妙な表現が面白いです。ドラムは好き放題にからみ、ピアノは2音のリズムのバリエーションをさまざまに展開しつつ、ストイックにそれを続けていく。もう、エクスタシーのてっぺんになるような最高のデュオであります。聴きながら机のうえを拳でぶっ叩いてる自分。8曲目はちょっとジャズっぽい感じ。モンク的なモチーフを激熱にしたような……とにかく聴いていて意味もなく「ぎゃーっ!」と叫びたいような凄まじさ。そして楽しさ。集中力っつーのはこれぐらいないとあかんのやろな。これこそ、なんというか、私には詳しいことはわからないが、いわゆる「フリーインプロ」とかいうものではなく、ただただ自由にふたりの奏者が自分たちの音楽性とかキャリアとか技術とかをぶつけあった成果なのだろうな。感動しかない。9曲目は最初ぐじゃぐじゃなヴォイスがフィーチュアされる。そのあとピアノの鍵盤にエネルギーをぶちまけるようなガチンコのフリージャズ的なデュオになり、手に汗握る展開になる。これこれ、こういうのが聴きたかったんや!と叫んでいるひとは多いでしょう。めちゃくちゃ凄い。10曲目はドラムソロではじまり、えー、そうなるか! というバラエティ豊かな展開はこのふたりならではでしょう。当人にきいたら、好きなようにやってるだけ、と言うかもしれないが、聴き手の一歩、二歩先を行き、先入観を裏切りまくるこの演奏はすばらしすぎる。甘い、耳なじむ展開のあと、シリアスでゴリゴリの展開……とそういうのが交互にぶっこまれ、しかも、すべてが即興なのだから恐れ入りますよ。ラストの11曲目はピアノがフリージャズ的な疾走感のあるフレーズをバリバリ弾きまくり、ドラムが叩きまくる短いインプロヴィゼイションだが、アルバムを締めくくるパワーがある。いやー、傑作というかなんというか……ジャズ史に残るような最高のアルバムでした。感涙。つーか、また聴くけど。