yasuhiro yoshigaki

「LOVERMAN PLAYS PSYCHEDELIC SWING」(STUDIO WEE SW208)
EMERGENCY!

 現行の芳垣安洋のリーダーバンドとしては、ほかにヴィンセント・アトミックスがあるわけだが、あれは大編成の一種のプロジェクトだから、ツアーもできるし、ライブも恒常的に行えるバンドとしては、このエマージェンシー!ということになるだろう。芳垣さんについて何かを語ろうとすると、どうしても私的な話になってしまう。ファースト・エディション、サイツ、ルンベロス、チョキチョキズ、アルタード・ステイツ、渋さ知らズ、コブラ、片山バンド、南博バンド、大友ニュージャズクインテット……無数の有名バンドに参加し、現在の日本のクリエイティヴミュージックシーンをリードしている芳垣さんだが、彼のドラムを生で聴いているときにいつも私の頭に浮かぶのは、あの芦屋のメルティングポットで、北川潔カルテットの一員として、トップシンバルをひっくりかえるぐらいに強打しまくっていた芳垣さんの圧倒的なドラミングだ。和製エルヴィンと呼ばれた人はけっこういるが、どれもこれも似て否なるものばかりだったが、芳垣さんの叩き出すポリリズムは、その複雑さ、スピード感、パワー、グルーヴ……どれをとってもまさにエルヴィンだった。こんなすごいひとがいるのかと呆然としていつも聞き入ったものだ。あれから20年ほど。思えば、芳垣さんも遠くまで来たものだ。ほんとに世界一のドラマーになってしまった。私が、こうしてまがりなりにも小説家としてデビューし、辞めずになんとかやっているのも、芳垣さん、大原さん、内橋さんたちの演奏を聴くたびに、これではいけない、何かをしなくては……という思いが強まるからである。もうこんな仕事はやめてまえ、と思うこともしばしばだが、そのたびに彼らの演奏を聴いて、いや、この人らがこれだけがんばっとるんやから、おれももうちょっとがんばらなあかん、と思うのである。そういう意味で、ほんとうに恩人なのである。そういう芳垣さんのレギュラーバンドである。このアルバムにも、じつは随分救われた。いやなことがあったり、仕事をやめたくなったりしたときに、一種のクスリのようによくきくのである。だから、客観的に語ることのできないアルバムである。ドラム、ウッドベースに2ギターという編成だが、シンプルで、エレクトリックかつアコースティックなこの編成は、芳垣さんのドラムを聴かせるのに適している。中身はいわずもがなだが、こういうサックスのいない編成のものを私が聴くというのも、芳垣さんのグループだからこそである。生でも聴いたが、信じられないぐらい阿修羅のドラミングで興奮のるつぼだった。ヘヴィーだが、フットワークが軽い、という奇跡の音楽。原曲を知らない人に聴いてほしいです。

「LOVERMAN PLAYS FOR PSYCHICAL SING」(STUDIO WEE SW305)
EMERGENCY!

 芳垣安洋率いる「エマージェンシー!」の二枚目。個人的には一枚目より好きだが、それはたぶん、収録されている曲の好みとか、そういった理由により、内容的にはどちらも遜色ない。1曲目の「シング・シング・シング」から、二曲目の「ベター・ギット・イン・ユア・ソウル」、そして「グッド・バイ・・ポークパイ・ハット」へと至るあたりの興奮は、筆舌に尽くしがたい。ライナーノートに芳垣さんのお父さんの思いでがつづられており、そこには書いていないが、スタジオ入りした日にお父さんが亡くなったか、危篤になったか、そういうことがあったらしい。このアルバムには、1枚目同様、いろいろ救われた。あー、うっとうしい、もういやだ、仕事やめたい、と思うようなことがあったとき、でかい音でじっと聴いていると、ぐちゃぐちゃ言わずに一途にドラムを叩く芳垣さんの音が身体に染みこんできて、もうちょっとがんばろか、という気持ちになるのである。そういう気持ちにさせてくれる音楽って、今はほんと少なくなりました。

「VINCENT T」(BODY ELECTRIC RECORDS EWBE0006)
VINCENT ATMICUS

 芳垣さんのリーダーバンドではあるが、いわゆる即興演奏家や、怪物ドラマーとしての芳垣安洋ではなく、サウンドクリエイターとしての芳垣さんの音世界を楽しむべきアルバム。芳垣さんは、映画音楽や芝居の音楽も手がけているが、芳垣さんのそういう側面がこのアルバムにはぎっしりつまっている。彼の頭のなかに鳴っている音がどんなものかはっきり知ることができて興味深い。曲はどれもいい。いい、というような言葉では弱すぎる。めっちゃいい。変態的な変拍子も多いが、それを参加ミュージシャンは皆、いとも軽々と演奏し、スウィングし、グルーヴし、自己表現をする。プログレファンも狂喜しそうな感じ。芳垣人脈で集まったこの凄腕の人たちは、ほんとに今の日本の最高峰のグレート・ミュージシャンばかりだ。みんなすごいのだが、ひとりあげるとすると、やっぱり菊地さんかなあ。この人のテナープレイは、いろんな人に似ているようで、実は誰にも似ていない。いつ聴いても、そのとんでもないアイデアとその発展のさせかたに感心する。曲のなかには、実はめちゃめちゃ難曲もあるのだが、微塵も感じさせない。聴いているあいだじゅう、楽しくて楽しくてしかたがない。終わったらまた1曲目から聴きたくなる。もー、すっかり頭のなかは「ヴィンセント・アトミクス」一色になってしまった。どんなジャンルの音楽ファンにもおすすめしたい。いや、日頃は音楽聴かないひとにもすすめたいです。

「VINCENT U」(BODY ELECTRIC RECORDS EWGL0004)
VINCENT ATMICUS

 やっぱり「プログレ的」という言葉がいちばんぴったりするのかな。プログレをよくわかっていない私には、おそるおそるそういう言葉を使うしかないが、1枚目を聞いたときと同様、このグループの演奏はプログレの影響を強く感じさせる。もちろん、各種民族音楽などの影響も。どの曲も、変拍子とキャッチーなメロディーによるグルーヴが強烈で、おいしいリフに浮かされているうちに、あれよあれよと聞き終えてしまう。トロンボーン2本がよく効いていて、まるでトロンバンガみたいに聞こえるところもある。前作に比べてサックスがいなくなったのが、個人的には悲しいが、まあ、そういうタイプの音楽(サックスが入ってるとか入ってないとかで善し悪しを決めるような)ではないからしかたがない。二曲ほど、すごく気に入った曲があって、しばらくそればっかり聴いていたが、ほかの曲もやっぱりいいなあ、というわけで、今は全曲通して聴いている。いろんな聴き方ができる、という点でも、全然「ジャズ」ではないですね、これ。ほんと、こういうのやらしたら世界一だよなあ、芳垣安洋。

「VINCENT V」(GLAMOROUS RECORDS EWGL0006)
VINCENT ATMICUS

 この心地の良い音楽をどう表現したらいいのか……私がふだん聞いている、ソロとか即興が主体の音楽ではない。しかし、ふんだんにソロも即興の要素もある。しかし、どう考えてもここでの主役はそれらではなく、なんというか……グルーヴそのものだ。しかも、めっちゃ過激。サックスが入っていない音楽を聴く、というだけでもめったにないことなのだが、ヴィンセント・アトミクスの3枚目は、前2作にも増して、徹底的に聴き手のツボを狙ってくる。それも、ショットガンやライフルで、ではなく、もっとえげつない、ロケット弾やミサイルの連続発射で。なにしろ、ホーンはトロンボーン2本だけ。彼らが重低音から高音までをカバーする。これは効きまっせ! サルサのトロンバンガを思わせるシンプルかつ過激な編成。そして、バイオリンが二本。これも過激。サックスソロはないかわりに、バイオリンソロがダブル。これも効く! リズムは芳垣を中心に分厚くかつシンプル。ああ、もういうことおまへん。曲も全部よくて、芳垣のオリジナルもすばらしいし、これは豪華絢爛音絵巻。1作目、2作目をへて、ここにおいてたどりついた至福のリズム・アンド・ハーモニーのグルーヴパラダイス。音楽なんて単純に踊れればいいじゃん、かっこよかったらいいじゃん、というひとも、音楽は深くて、えげつなくて、過激でないと……というひとも、ジャズもロックもクラシックも民族音楽も即興も全部全部ぜええええんぶ溶け込んだ極楽浄土の音楽である。愛聴すべし!

「LIVE IN COPENHAGEN」(JUTLANDT JUT0003)
EMERGENCY!

 もう、気が狂うぐらいかっこいいです。エマージェンシーの過去二枚のアルバムに比べ、ライヴであるせいか、はたまた外国での演奏というテンションのせいか、躍動感にあふれ、選曲もよく、ソロも爆発しまくりで、たった四曲なのに、聴いていてへとへとに疲れる。こういう、レベルの超高い即興的なアンサンブルとメンバー間の高速でのインタープレイ、そして凄まじいリズム……などのうえに乗っかっている、どちらかというと激情的、直情的な刹那の快感を優先させたようなシンプルな演奏、というあたりが粋です。パワーのメガトン級爆発は、アルタードステイツのような変態性やアヴァンギャルドさは希薄なものの、もっとプリミティヴで、ポップで、ジャズの根源をたどるような、最先端かつレトロな良さがある。どの曲もすばらしくて、聴き終えたとき思わず拍手をしてしまった。最高じゃないっすか! 一曲目の「リ・バプティズム」というのはアート・アンサンブルへの返歌(?)かなあ。「シング・シング・シング」や「フォーバス知事」「インフレイテッド・ティアズ」などの、ひとくせある有名曲がふたくせある連中によってめちゃくちゃかっこよく生まれ変わっていく過程を聴いているだけで興奮しまくる。ジャズっちゅう音楽は、今は「これ」! まさにこのような形になっておるわけです。だれがなんといおうと傑作。つらいとき、しんどいとき、おちこんだとき……すべてを台風のように吹っ飛ばしてくれるアルバム。

「ROCK OPERA!」(SOLID RECORDS CDSOL−1724)
ORQUESTA LIBRE + ROLLY

 オルケスタ・リブレはこれまでに3枚のアルバムを出していて(LPとCDが内容が違うとか、販促用のオマケCDなどは除く)、これが4枚目だが、本作は、とんでもない大傑作だと思った3枚目の「プレイズ・デューク」と並ぶ傑作だと思う。あのローリーをボーカル〜ギターに据えてのロックオペラ集というのもぶっ飛んでいるが、そういう企画を実現させてしまう芳垣さんの剛腕には感心するばかり(まあ、発売まではいろいろたいへんだったようだが)。これまでではもっともロック寄りのアルバムだと思うが、こういった企画の場合、原曲を知っていると、そして原曲があまりに有名すぎると、ああ、あの曲をこんな風に解釈したのね、けっこうおもろいやん、とか、アレンジする側も、あまりに有名曲だからなにか変化球的な感じで……とかになってしまうものだ。しかし、本作はとにもかくにもアレンジがよい! ここに二重線を引きたいぐらいだ。シンプルなのに、分厚い部分は分厚く、軽い部分は軽い。ごてごてそ装飾過多になったり、いたずらにゴージャス過ぎたりするのではなく、絶妙ではないか。聞くたびに感心する。1曲目は「キャバレー」から「ウィルコメン」。高平哲郎の訳。もともとシャンソン+デキシーみたいな雰囲気の曲なので、それをほぼ忠実にリブレ流に再現している。フリーっぽいイントロからギデオン・ジュークスのチューバがシンプルな2ビートですべてを支える。ちょっとゆっくりしたテンポでじっくり、しっとり演奏しているのも、オープニングにふさわしいし、歌の説得力が増す。アルバムのイントロダクションとしてこれぐらいふさわしい曲はない。これからロックミュージカルを集めた宵がはじまるよという宣言である。ナレーションのあとテンポアップして4ビートになり、デキシーランドジャズ風になるが、こういうのもリブレはお手の物であり、後半のリフもかっこいいっす。トロンボーンとトランペットのソロもいい。2曲目はジャズでもよくやるスタンダードで「ジャスト・ア・ジゴロ」だが、こういう歌詞の内容だったとは知らなかったなあ。「もちろんアレのほうも最高」とか「今日はパリで明日はニューヨーク」とか……と思って調べてみると、これはどうやらローリーによる勝手翻訳みたいで、いやー、この歌詞最高やん。ある意味「三文オペラ」にも共通するよね。デヴィッド・ボウイ主演で映画になってるが、その内容ともべつに関係なかった。4ビートで楽しくスウィングするアレンジで、ベイシーっぽいけどシンプル。芳垣さんのドラムも派手さはなく、ツボを押さえたシンプルなもの。藤原大輔のテナーソロ、めちゃくちゃかっこいい(音色もすばらしいです)。そのあとのトランペットも、いかにもスウィング系ビッグバンド的でいいです。ブレイクのときのスキャットみたいなやつはまるで藤井康一みたいでかっちょいい(ルイ・プリマのバージョンやデヴィッド・リー・ロスのやつ(雰囲気としてはこっちが下敷きになってるのかも)でも同じようなブレイクが出てくる)。最後のサッチモエンディングも忠実に再現してある。私はサッチモとかモンクのやってるような、ジャズ的なやつしか知らなかったので、こういうのは新鮮でした。3曲目は芳垣さんが大好き(なはず)のザ・フーの「トミー」からの曲で、ここからは原曲がロックだが、オルケスタ・リブレはジャズっぽく崩すのかなあと思っていたら、それではローリーを呼んできた意味がないということか、ストレートアヘッドなロックアレンジで、リブレ的にはこれまでにないタイプの演奏ということになる。いやー、これはめちゃよかった。ローリーはこの曲にうってつけだ。湯川れい子+ローリーによる歌詞もいいよねー。この演奏はたぶん「トミー」ファンも納得じゃないですか? もともとそういうところある曲だが、ロックとビッグバンドがじつにうまく融合したアレンジ。ギターソロも快調! 4曲目も同じく「トミー」からの曲で、ティナ・ターナーの場面を知らずにこの曲だけを抜き出して歌詞を聞くと、なんのこっちゃ?となるのだが、とにかく「ジプシー」で「アシッドクイーン」で「メロメロ」であることはわかる。これもパーカッションがうまく効いていて、ホーンとともにグルーヴしまくる快演で、ギターソロも爆発している。かっちょええ。でも、この曲は前後の関係がもっとはっきりしてるほうがいいような気がするので、オルケスタ・リブレによる「トミー」全曲カバーを期待したいと思う。5曲目は、実は私は全然知らない曲で、フォーカスというプログレバンドの曲だそうだが、すごく有名だそうである。インストで、ギターがひたすら活躍する。ベースもかっこいい。松岡直也か! というぐらいすがすがしいテーマ。原曲がどんなんかは知らん。6曲目は、出ました! 「ロッキー・ホラー・ショー」からの曲。歌詞にひとひねりしてあって、たとえば原曲は「フラッシュゴードン」だがローリー訳は「フレッシュゴードン」になってるとか「ドクターXは怪物を作った」というのが「ダッチボーイ」になってたりとか、ジュリー・アンドリュースのブルースとか無茶苦茶である。サウンド・オブ・ミュージックとか虹の彼方へとかコージー・パウエルとか関係ないし(そこがおもろいのです)。ちょっとボーカルがオフ気味なので歌詞が聞き取りにくいが、まあそんなことはどうでもいい。もともと原曲もわけのわからない歌詞なのだから。サックスのオブリガードもかっこいいし、ギターも弾きまくっている。7曲目も「トミー」からの曲で一応ボーカル(というかヴォイス)は入っているが、基本インスト。サックスのアブストラクトなソロがある。アレンジもアバンギャルドでいいですね。8曲目はリブレといえば……という感じの「三文オペラ」からの曲。ええアレンジやなあ。めちゃかっこええ。ピアニカ(?)だけの素朴な伴奏から一転、「ヤーナコッター」と繰り返すどろどろの地獄絵図のような重いパートが出現。ノイズがうまく使われていて、かなりハードなナンバー。トランペット中心のフリーキーな部分がながながとあったあと、ピアニカ伴奏のパートから再びヤナコッターのどろどろしたパートになって終了。ラストの9曲目はエノケンの「洒落男」で、これが見事にアルバムのラストにはまっている。これ、シングルカットしてもいいかもと思うぐらい、ローリーの歌い方最高でありまして、もとの訳をちょこっとだけひねったアホな歌詞もすばらしい。軽いとみせかけて、じつはドスのきいたアレンジも見事。というわけで、全曲聴けばわかるが、ローリーはゲストというより完全に主役。歌って歌詞書いてアレンジも(一部)してギター弾きまくってる。リブレはつぎはどこへ行くのか、なにをするのかほんと目が離せないですね。あしゅら男爵みたいなジャケットもすてき。

「ハッシュ(ライブ・バージョン)−ROCK OPERA!」
ORQUESTA LIBRE + ROLLY

 販促用のCD−Rである。ピットインのライヴだが、これがめちゃくちゃかっこいい。ギターもでかい音で録音されている。ボーカルはさすがにちょっとオフ気味だが、そういうことを吹っ飛ばすぐらい熱い演奏である。ディープ・パープルの曲を「七味唐辛子の歌」に完全に作り変えてしまっている。トロンボーンもギターもテナーもトランペットもかっこええ。

「ON THE MOUNTAIN」
芳垣安洋 岩見継吾 吉森信

 バンド名はもちろんエルヴィンのあのアルバムから来ているわけだが、去年、ツアーを観たときはまだあのアルバムの曲をやったりしていた。しかし、ピアノが変わって今回のツアーを観ると、ほぼエルヴィンともあのアルバムともなんの関係もなくなっていて微笑ましい。本作は、ツアー会場のみで販売されているCD−Rで、最近はこういうのがめちゃくちゃ増えたが、ちゃんとマスタリングされているようなのも多く、音質も内容もフツーの商品と変わらなかったり、あるいは正規盤よりも熱い演奏が聴けたりするのであなどれない。そもそもピアノトリオという形式にほとんど興味のない私がこのバンドのライヴに行ったり、こうしてCDを買ったりするのは、「芳垣さんだから」ということにつきるのだが、そういう無理矢理の出会いのわりにはこのトリオがめちゃくちゃ好きになった。ライヴのときのあの高揚感がこのCDRにはちゃんと入っている。オンセントリオとか、よく考えると、最近ピアノトリオもけっこう観てるし、ハマッてるよなあ。昔はそれこそ明田川トリオぐらいしか聴かなかったのになあ。俺も大人になったなあ……とかいうわけではなく、このトリオが私のポイントポイントを突きまくってくれるからなのである。簡単に曲を紹介すると、1曲目は吉森信の曲で福島の災害に捧げた「ふくのしまの光」という曲。ライヴでもやってたけど、そういう意味を知らなくてもめっちゃええ曲。2曲目はモンクの「トリンクル・ティンクル」で、ライヴのときはめちゃくちゃかっこいいイントロダクションのパートがあったがここに収められた演奏も熱すぎるぐらい熱いし、洒落っ気もある。ピアノがとにかくすばらしいが(ちゃんとモンク的な部分もあったりして)、芳垣さんとのインタープレイもとにかくかっこよすぎで、こういうのをコラボレーションというのだろうな。いやー、ジャズですね。7分過ぎから倍テンになるところなんか、ドラムが冴えまくる。3曲目は、なななんとサニー・アデの曲で、持ってきたのは岩見さんらしいが、岩見さんはサニー・アデのことを知らなかったらしいです。ええ曲や。ライヴの打ち上げで芳垣さんとサニー・アデの話を長々とした覚えがある。シンクロ・システム! 岩見さんの歌(?)もあり、ベースも弾けまくっている。楽しい! 4曲目は、吉森さんの曲で「ストレイト・フィーリングス」。美しいメロディのバラードでほっこりする。5曲目は作曲者のクレジットはないがミンガスの「神よ、私たちのうえに原爆を落とさないでくれ」である。いかにもこのバンドか取り上げるにふさわしいレパートリーであり、タイトルとはうらはらのしめやかなスローブルース。ここでも変幻自在のインタープレイが炸裂。いやー、めちゃくちゃかっこええやないですか! こういうピアノトリオならずっと聴いていられる。ラストはまたまた吉森信のオリジナルで「みたことのない雨」という曲。タイトルが頭にあるせいか、たしかに雨が降っている光景が思い浮かぶ。雨足は次第に激しくなり、道には水溜まりができるが、けっして嫌な感じではない。どんどん雨は強くなっていく。生きとし生けるものがその恩恵にあずかっている。そう、「恵みの雨」なのだ。すべてを清浄にする雨のなか、演奏は終わる。いやー、みんななんとかしてこのCDRを入手すべきです。はい。3人ともすごすぎるじゃん。早く正規盤を!

「MOGOTOYOYO」
MOGOTOYOYO

 なんと紹介してよいのかわからないが、このバンドで現在唯一入手できる音源。ライヴなどで手売りされているが、タイトルもなにもない。録音日も録音場所もメンバーも曲名も記載がない。しかし、内容はすばらしい。結成して間もないころに録音されたものだと思うが、すでにコンセプトはしっかりしており、すばらしいとしか言いようがない。自己紹介的なライブ物販用のCD−Rだとは思うが、音も良く演奏も最高なのである。芳垣さんがアート・アンサンブル・トリビュートなグループを結成すると聞いて血沸き肉踊り、ああ、やっとか……と思ったが、そこになんとあの元晴さんが参加すると聞いて、これはもしかしたらすごいことになるのではないか、とひとりで興奮しまくった。そして、最初のライヴをピットインまで聴くために上京したのだが、そのときの感動がこのタイトルすらないCD−Rには収められているのだ。そういうアルバムなので、ざっくりしたレビューにとどめたいと思うが、どうなりますか(もう、入手してから20回ぐらい聴いてるのです)。1曲目、元晴のマルチフォニックスを交えたアルトソロ(実際はアルトソロではなく、ベースとパーカッションが加わったトリオ)によるオープニングからすでに、ああ、このひとはこっち側のひとだったのだ的な感動に打ち震えながら聞いていると、「モゴトヨーヨー」という歌詞が乗るシンプルなテーマリフになる……という展開はやはりどうしてもアートアンサンブルを連想してしまい胸が熱くなる。2曲目は吉田隆一のバリトンによる、音を歪ませた激烈なソロにテーマリフが入る。かっこいい。そこから超アップテンポの4ビートになって有本羅人のトランペットがブロウしまくる。最近めちゃくちゃ上手いトランペッターも多くて、いろいろ注目されているようだが、これだけフリーフォームで吹けて、表現力があるラッパ吹きがほかにいるだろうか。芳垣さんの期待に完璧に応える逸材なのである。有本羅人はぜったい凄いって。そして、岩見さんのベースソロ。エフェクターをかましながらも、骨太で豪快で、そして聞いているものの心をぐっと掴む演奏。このひとはほんとさすがなのだ。そこから吉田隆一のフルート(バスフルート?)をフィーチュアしたルバート的なフリーな叙情的展開になるのだが、このフルートも、シンプルだが心を打つ。そして、バラードのテーマへと移行してエンディング。この構成も渋い。そこから、これもアート・アンサンブル的な打楽器多数による即興。芳垣のパーカッションを主体とした疑似アフリカ的な演奏。銅鑼が鳴り響き、わけのわからない言語によるヴォイスが飛び交う。おもろいよね。「モゴトヨヨ」と叫びあうアホな5人。すばらしい! フェイドアウトしてつぎの曲へ。3曲目はどこかで聞いたことがあるような、のんきでのんしゃらんな牧歌的なブルース。アルトがテーマを吹き、トランペットがノイジーなオブリガートをつける。まずは有本羅人のトランペットソロ。このひとはじつはハードバップでもなんでもできるひとなのだが、こういう即興的なバンドではそういうフレージングはすべて一旦リセットして臨む。なので、こんな新鮮な演奏ができるのだ。つづく元晴のアルトソロも、いろいろと仕込んでいた感じのまるでない純粋に「その場」の演奏で、フリーとかフリーでないとかいう以前に、こういうひらめきだけの演奏の素晴らしさは聴き手の心をぐさりと刺す。4曲目はアンサンブルによる曲がベースのリフによって新しいテーマへと導かれる。トランペットがストレートアヘッドな熱いソロをする。正直、この編成でのトランペットはさまざまな用事を任されて、たいへんではないかと想像するが、有本羅人はちゃんとその重責を果たしている。つづく元晴のアルトソロは、非常に正攻法で「ぶちかます」感じのもので、この熱気はただごとではない。このグループにおける元晴氏の重要性は、この1曲の演奏を聴けばだれもが納得するだろう。びしっ、と終わって、芳垣のドラムソロ。これはかっこいい。芳垣安洋のドラムはなかなかあのライヴの凄さが録音にはおさまらないのだが、ここでの演奏はライヴの熱気を詰め込んだ感じがする。そのあと、ヴォイスパフォーマンスがなんやかんやとあって、ゆるやかなテーマ。あー、全員凄い。この57分に及ぶ演奏が、たった、えーと何円だったか忘れたけど1000円ぐらいで自分のものになるのだよ。得としかいいようがないぞ。ほんと、ソロのフレーズを覚えるぐらい聴いたけど飽きないし、このままマスタリングして正規のCDにしてもいいぐらいだ。芳垣さんが今やってるさまざまなプロジェクトやバンドのなかでも、私の好みとしてはダントツ一位のバンドだ。とにかくメンバーの人選が本当にすばらしく、なかでも元晴さんが起爆剤になっていて、このひとに加入してもらうというアイデアを出したのは某さんだそうだが、なんという着想だ。あとの4人はなんとなく「あるある」という人選なのだが、そこに元晴氏が入ることによってこのバンドはオリジナリティがぐっと増した。ヨーロッパでのライヴについては、案の定というか、アート・アンサンブルの物真似だ的な批評がけっこうあったらしいが、そういうことを言うのはあさはかである。AECの影響を受けたグループはカルロ・アクティス・ダートのバンドやワークショップ・ド・リヨンの例を挙げるまでもなくいろいろあるが、芳垣さんとAECの出会いは、〇十年まえ、あの大阪ブルーノートにアート・アンサンブルが一週間出演したとき(私も2度観に行きました)、深夜の3ステージ目に芳垣さん率いる「ファースト・エディション」(大原裕、内橋和久、塩谷博之、荒崎英一郎、三原脩)が出演し、つまり、一週間まるまる対バンしたのであるが、もちろんときにはAECのメンバーがファースト・エディションに飛び入りすることもあって、皆は大きな直接的な影響を受けたのである。もちろんステージ外での交友もあり、とくにドン・モイエと芳垣さんはかなり親しくなったらしい。そして、一昨年、オフノートの企画で「生活向上委員会2016」というコンサートがあり、梅津和時と原田依幸が30数年ぶりに共演、というデュオにゲストとしてドン・モイエが入ることになったのだが(京都で観ましたが圧倒的な演奏でした)、そのとき梅津さんから芳垣さんに「ドンが会いたがっている」という電話があり、芳垣さんとドン・モイエは久々の再会となった。そのすぐあと、ドンの息子さんが悲劇的な死を遂げるという出来事があり、芳垣さんは「俺がAECをトリビュートしたバンドを作って、それをヨーロッパに連れて行き、あなたに聴いてもらう」とドンにそのとき約束したらしい。そういう背景があっての「モゴトヨーヨー」なのだ。たんに顔にペインティングして多楽器を使って……という安易な真似ではないのだ。このCD−Rを聴いていると、そういう芳垣さんの決意というか想いが伝わってこないだろうか。そして、最初のライヴを聞いたときに、めちゃくちゃ凄いけど、アート・アンサンブルのような遊びというか緩みというかいい意味でのいい加減さがなく、ものすごくきっちりしている。でも、それは何度もライヴを重ねていくにつれて、緩んでくるだろう……そう思っていたのだが、最近のライヴでもやはりきっちりした演奏が続いているらしい。つまり、それは芳垣さんの個性ということであって、アート・アンサンブルとはやはりまるで違うグループだということの証拠なのである。正規アルバムが出るまでのつなぎ……と考えるにはあまりにすばらしい内容なので、皆さんがんばって入手してください。

「ON THE MOUNTAIN」(GLOMOROUS RECORDS GLAM 0004)
ON THE MOUNTAIN

 3人ともただただ凄い。芳垣さんがエルヴィンの「オン・ザ・マウンテン」が大好きだということではじまった……んだったような気がするこのトリオだが、今やまったくそういう痕跡はなく(3曲目に「オン・ザ・マウンテン」に入ってるヤン・ハマーの「ソーン・オブ・ア・ホワイト・ローズ」が入ってはいるが)、芳垣さんがやりたい曲をピアノトリオという枠をぶち壊して好きなように演奏する、というすごいバンドになってしまった。何度もライヴで体感したが、とにかく3人のメンバーが自分の楽器を弾くだけでなく、歌い、笑い、しゃべる。ライヴで手売りしているCD−Rがあるのだが、それがめちゃくちゃ良くて、早く正規盤を出してほしいと思っていたのだが、コロナ禍においてこういうアルバムが発売されたことはめちゃくちゃ喜ばしい。私は、サックスが入っていないバンドには正直あまり興味がないのだが、このグループに関しては最初からずっとベタ惚れ状態で、いわゆるジャズのピアノトリオとはちがった、フォーキーでラテンな「バンド」のような印象だ。芳垣さんの選曲や、ほかのメンバーが持ってくる曲、そしてオリジナルが、この3人によってひとつの作品になり、「オン・ザ・マウンテン」の血となり肉となる感じは本当に魔法のようだ。こういうのを聴くと、あー、バンドだなあ、と思う。芳垣さんは、セッションではなく、バンドのひとだ。たとえ年に一回、いや、数年に一回しかライヴをしなくても、セッションではなく「バンド」として考えている。それは 大事なことではないか。私事だが、私の下の娘が中学〜高校とパーカッションをやり、大学の軽音ではドラマーとして叩いているが、はじめて芳垣さんの演奏を生で観せたのがこのオン・ザ・マウンテンだった。終わってから「どうやった?」ときいたら、「あまりに凄くてなにがなんだかさっぱりわからなかった」とのことでした。1曲目はカリンバ(ムビラ?)を中心としたパーカッションアンサンブルではじまり、アフリカの大河の流れを思わせるような演奏になる。ドゥンドゥン……とトーキングドラムのように鳴り続けている打楽器や太いウッドベースのグルーヴのうえにピアノがきらきらとした水のような即興的なメロディをつむいでいく。最後は4+2+3(?)のリフの繰り返しが熱を高める。この1曲を聴いて、本作が傑作だと確信した。2曲目はなんだかよくわからない掛け声とともに全員のハンドクラップがはじまり、ピアノがそのなかに雨だれのように落ちてくる。ホイッスルが吹き鳴らされ、激しいリズムのめちゃかっこいいテーマがはじまる。ピアノの過激なソロとそれを煽るベースとドラム。だれだかわからないヴォイスが(それも複数)聞こえてくる。なんと自由な音楽なのだろう。フリーのインプロヴィゼイションになり、あれ? 最初に思っていた展開と全然ちがうぞ……と思ったときにはすでにまるでちがった世界に連れていかれている。なんじゃこりゃーっ! まさに魔法のようだ。3曲目は上記にも書いたヤン・ハマーの曲でエルヴィンの「オン・ザ・マウンテン」に入ってる曲。しかし、演奏はまるで異なっている。えげつないぐらい激しいドラムもだが、凄まじいベースの爆発力は聴いていて胸が苦しくなるほどの凄さ。最後の方はムーグみたいなシンセの音がして、ヤン・ハマー感を(ちょっと)感じる。4曲目はすばらしいソングライターでもある吉森信の曲(本作でも3曲を提供している)で、力強く、プリミティヴなグルーヴを提供する芳垣、パワフルかつシンプルな岩見の超魅力的なリズムに対して、吉森のピアノはどこか我々の知らない世界の音階を使っているかのような「あの世」感があって、めちゃくちゃすばらしい。タイトルは「見たことのない雨」だが、たしかに標題音楽的に言うと、雨がどしゃどしゃと降っている雰囲気もある。これもまたひたすら自由な音楽なのだ。5曲目はエリントンの「アフリカン・フラワー」だが、冒頭、驚くようなリズム処理がほどこされていて、あまりのかっこよさに総毛だつ。いや、これはたしかに「アフリカン」ですわ。ベースもドラムもパターンをずっと続けていて、ピアノがそのうえを這いまわるように弾くだけなのだが、この重さ、ヘヴィな打撃はなんだ! 死ぬほどかっこいいではないか。6曲目はなんとあのサニー・アデの曲。サニー・アデといっても最近では知らないひとも多いかもしれないが、かつて、私が学生のころ(つまり、40年ぐらいまえか。ひゃーっ)はものすごくメジャーだったジュジュミュージックの大スターである(当時は、輸入盤屋に行くと、ジュジュとかリンガラとかのコーナーがちゃんとあったのだ。隔世の感……)。選曲したのは岩見さんだそうで、このキャッチーなリフをよく見つけてきたものだと思う。ピアノの暴風のようなソロが、ライヴでのこの曲の演奏を彷彿とさせる。そして、ベースの、どういう顔で弾いているかが頭に浮かぶような凄まじいソロ……の直後にぶちかまされるリフとコーラス! 凄い! ドラムの、地球を下に沈めるかのごとき重い重い重い……しかもかっちょいいソロ。7曲目はなんと「君の瞳に恋してる」を超ヘヴィなリズムで再現したバージョン。重いリズムと軽快なピアノの対比が面白い。ずしん、ずしんと来るベースの重さがいいですね。最後はなんかノイズっぽくなる。8曲目もかなりまえからライヴでは聴いている岩見さん作の曲。タイトルはかわいらしいが、演奏は相当ハード。ときどきピアニカがパフパフ……と吹かれ、パーカッションがドガチャガと鳴るあたりは「絵本」っぽいかも。空間を埋め、崩していくような芳垣さんのドラミングがものすごい。8曲目もライヴでおなじみの3拍子の曲。福島への想いを込めた演奏。このひとは私ごときが言うのはなんだが、本当にいい曲を書く。最高のコンポーザーだと思うが、その曲を素材としてこういう風に演奏するというところがまたすごいんだよなー。3人が一丸となった怒涛のグルーヴ。ガンガンガンガンガンガンガン……というピアノの超単純なリフのパワーには驚く。ラストはジム・ペッパーの「ウィッチ・タイ・ト」で、これもこのバンドのライヴではおなじみ。ライヴではさんざんアドリブの応酬があってからのこのボーカルパートなのだが、これはこれでアルバムの締めくくりにはふさわしい形だと思う。トニー・ヒラーマンのミステリ作品を思わせる。この曲、あと20分ぐらいやってくれてもいいんだけどなー。あー、終わってしまった。もう一回最初から聴こう……と永遠にリバースされるのだ……。こういうスタジオ録音のアルバムはたいがいライヴよりもおとなしくなりがちだが、本作はまさにライヴの熱気はそのままに、完成度はズドーンと上げているので、もうなにも言うことはありません。今後、ピアノトリオの名盤……という企画があったら、本作はかならず入るはずと個人的には勝手に思っております。10曲が10曲、全部すごい……というアルバムも珍しいかも。そして、エンターテインメントでもあるという大傑作。コマツソウルカッター氏のジャケットも最高です。

「YASUHIRO YOSHIGAKI 4DAYS LIVE @ SHINJUKU PIT INN」
VINCENT ATMICUS/HI HATS/ORQUESTA LIBRE PLAYS STANDARDS

 見た目はただのオマケCD−R。しかし、中身はお宝。2011年に新宿ピットインで芳垣さんの4デイズがあったときに収録された音源を、その後のツアーのときに手売りしていたCD−R。いわば本人が制作・販売していた海賊盤だが、ツアーのときの物販は貴重な即金の現金収入であり、なにが起こるかわからない楽旅のときには必要なものであり、また客にとってもありがたい音源なのである。本作はピットインの機材で録音していたのだからもちろん音質はばっちりで、内容も最高なので、正規録音となんら変わりはないクオリティである(とくに芳垣さんのドラムはめちゃくちゃ迫力のある音で録音されていてすごい)。10曲中前半5曲がヴィンセント・アトミクス、6曲目がハイ・ハットというグループ、7曲目以降がオルケスタ・リブレである。ヴィンセント・アトミクスは爆走するパーカッション軍団の作り出す激しいリズムとノリのうえで、二本のトロンボーンが重厚にからみあいながら疾走し、二本のヴァイオリンが縦横無尽に空間を切り裂く。贅沢極まりないメンバーに驚く。3曲目だけちょっと触れておくと、前半はインプロヴィゼイションということになっているが、いわゆる「フリー」ではなく、ずっとリズムがしっかりとあって、そのうえで展開していく。しかも、場面がどんどん変わり、リズムもどんどん変化していく。途中で「仲間割れかよーっ」という叫びが入ったり……とにかくめちゃくちゃ面白いうえに、それが録音の良さのせいで全部ちゃんと聞こえるのがうれしい。いやー、すごい演奏。よくわからんけど、コンダクションみたいなことが行われているのだろうと思うが……。全5曲、聴いているとトリップしてしまいそうなほどの強烈なグルーヴ感と宇宙的な解放感、高揚感がこれでもかというぐらい重層的に襲ってくる。すごい! 6曲目に一曲だけ入ってるハイ・ハッツというグループは芳垣〜高良というふたりのパーカッションに熊谷和徳というタップダンサーをくわえたトリオ。この三人の組み合わせで壮大なドラマを作り上げる手腕には驚いた。かっこいいです。タップの録音もよくて、いいバランスである。7曲目以降のオルケスタ・リブレはビッグバンド的でもあり、ムードミュージックのバンドのようでもあり、ヘヴィなパーカッション軍団のようでもあり、フリージャズのグループのようでもあり、クラシックの室内楽のようでもあり……とにかくいろんな音楽ができるメンバーをそろえた変幻自在のバンドである。ときにボーカルや講釈師、タップダンサー、ロックミュージシャン、フリージャズのピアニスト……などの個性の強いゲストを招きながら、それらを飲み込んでしまう。ここでの演奏は「プレイズ・スタンダード」期のものだから当然スタンダード(的な曲。ジャズの……ということではなく、もっと広い意味。ここでもタンゴの名曲や「三文オペラ」の曲などが演奏されている)をやっているのだが、加藤崇之のおなじみ「皇帝」もやっていて楽しい(3曲目はサンタナの曲)。青木タイセイのアレンジも冴えに冴えている。小編成と大編成、どちらの良さもあるので、ちょっとした可愛らしいインプロヴィゼイションが次第にあたりの音を巻き込んでいき、ついには大河のような怒涛の流れになるさまを味わうことができる。ただの物販用CD−Rと思うなかれ。機会があればぜひ聴いてください。

「FAUBUS LOOP MIX」(STUDIO WEE)
EMERGENCY! MIXED BY YOSHIGAKI YASUHIRO

 エマージェンシーの2枚目の「ラヴァーマン・プレイズ・フォー・サイキカル・シング」の特典CD−R。このダイナミクスには万人がひれ伏すだろう。ドラムに覆いかぶさってくるようなギター、遠くから次第に近付いてくるようなドラム、ドラムとともに複雑なベーシックなパターンを構築するベースなど、かっこいい要素が詰まっている。プログレ的な変拍子はどうにもよくわからないが(12・12・12・11・7か?)とにかく魅力的なパターンであることはまちがいなく、ずっと聴いてられる。ソロがどうこうというより、この変態的なパターンの魅力で押し通すような演奏。こういうの好きやー。

「雨にぬれても」
オルケスタ・リブレと柳原陽一郎(ORCHESTA LIBRE「うたのかたち」ライブ会場限定特典)

 もう説明はいらないと思うが、バカラックの超有名曲をオルケスタ・レブレが演奏したもの。ボーカルの洒脱なユーモアの表現(苦笑に近い)があまりに見事であります。ソレを包み込むシンプルなアンサンブルも最高で、パーカッションのかっこよさもぞくぞくする。