「RE.ナマの事実」(LERROY RECORDS)
ルイ・リロイ
関西を中心に活躍しているが最近は東京などでもばりばり演奏活動を繰り広げているギタリストの作品。有本羅人とのコラボを何度か見たがどれも面白かった。1曲目はかなりぐちゃぐちゃのノイズっぽい曲で、低音ヴォイス(のような音)ではじまりいろいろなノイズがオーケストラのように配列されていく。非常に抑制の効いた演奏である。2曲目はうってかわって可愛らしいメロディによる小品。このあたりで、ルイリロイ(このCDでは「・」のある表記になっているが、現在は「ルイリロイ」だそうです)というひとの面白さがちょっとずつ垣間見えてくるように思う。3曲目「フォー・パス」は、違っているかもしれないが、ジョー・パスへの捧げ物のように思われる。ギターという楽器にこだわり、ジャズにこだわったジョー・パスに捧げた(と私が勝手に思ってる)演奏は、ルイリロイというひとの音楽への姿勢を表しているような……気がする。4曲目は、木琴的な音とギターの多重録音による演奏(と思う)。シンプルだが「書かれた」感じの、非常にコントロールされた演奏でとても心地よい。5曲目も耳に残る曲。短い演奏だが、ていねいにつむがれるメロディは「間」の良さもあって、しみじみする。え? これって昔のスタンダードじゃないの? と思ったりするぐらいいい曲だが、それもすべて「間」の良さだと思う。6曲目はフリーリズムな空間的な即興ではじまり、ギターの弦の音をいかしたメロディの歌い上げになる。一度聴いたら忘れられないような哀愁の曲。かっこいい。7曲目は、ちょっと「ゴーイン・ホーム」を思わせるような素朴で、心に響く演奏。しっかりと、きちん弾いているだけなのだが、印象としてはものすごく力強い演奏に聞こえる。本作中でもっとも心に残った。8曲目は、自然のなかでなにかが天から降ってきているような壮大で美しいオーケストレイションである。最後の最後の展開が好ましい。ラストの9曲目でアルバムタイトルでもある曲は、超短いコラージュのような演奏だが、作品を締めくくるにふさわしい。ルイリロイさんはここにとどまらず、今はもっと広く、大きく展開しているので、次のリーダー作を早く聞きたいと思っております。(ミュージシャンとしての名前をルイ・リロイからヨシガキルイに変えたので、こちらに移動しました)
「VINO KARMA」(NONOYA RECORDS NONOYA009)
VINO KARMA
ヨシガキルイのギター、富川健太のベース、渋谷徹のドラムによるトリオ。なんといっても1曲目がとにかくインパクト大で、心に突き刺さる。伊福部昭の「ゴジラのテーマ」によるインプロヴィゼイションだが、変拍子のテーマから自由に展開して、ときには16ビートになったり、4ビートになったり、フリーリズムになったりという、いわゆるモチーフにしてあとは好き勝手というやつだが、これがめちゃくちゃはまっている。これは推測だが、年齢からしてヨシガキルイが初代ゴジラを観たのはおそらくそれほどまえではないと思うが、伊福部昭の世界観、初代ゴジラの世界観を構築しているのはすばらしいとしか言いようがない。私も自分のバンドでこの曲をはじめとする伊福部サウンドを何度も演奏させてもらったので(ある程度)わかるのだが、初代ゴジラの恐怖感、存在感、グロテスクさ、かっこよさ……を表現するのはオーケストラでなくては至難の業である(これまでもいろいろそういう試みが行われてきた)。しかし、ここに聴かれるギタートリオの演奏はスコアを一旦捨てて、あのテーマの持つ雰囲気をしっかりとつかみとり、即興の素材として再構築している。そして、その中に伊福部昭の言いたかったことがふたたび現れているように思う。ゴジラの、「ファミレ、ファミレ……」という音列だけをモチーフにした演奏は数多いと思うが、ここに聴かれる演奏は、伊福部昭のゴジラをギター、エレベ、ドラムだけで再現したものだと思う。かっこいい。この曲ばっかりずっとリピートしているのは申し訳ないが、とにかくかっこいいのだよ。以前大阪でのライヴで吉田野乃子とのデュオで演奏していたような記憶があるが、もともとゴジラのテーマは変拍子でそこに即興をぶち込みたいという気持ちにさせるものなのだ。だが、ここでの演奏は、単に素材としてゴジラのテーマをあつかっているのではなく、その内包する雰囲気とともに即興を行っているので、個人的には「めちゃくちゃマル!」なのだ。いやー、かっこいいです。即興演奏のファンだけでなく、怪獣とか特撮とかのファンのひとにもぜひ聴いてほしいよ。これは本当にすばらしい! 2曲目はヴォイスとノイズっぽいギターではじまる演奏。「ゴジラのテーマ」の自己パロディなのか? でも、そういう説明はいらないのだ。ドラムかっこいい。ゴジラの去っていく足音が聞こえる。3曲目は(タイトルの意味はようわからんが)いちばん長尺な演奏(23分7秒)。全編即興だが、ぐちゃっとしたアブストラクトな感じではなく、どこもかしこも具体的なフレーズ、リズムの応酬で超かっこいい。たぶんこの演奏がこの3人の現在の実力をはっきりと示しているのではないかと思う。一旦、静寂のなかに消えていこうという雰囲気になったあと、べースが急にリズムを弾き始め、そのノリに全員が応えていき、徐々にストレートに盛り上がっていくあたりは即興の醍醐味だろう。ドラムのアクセントのつけかたから別の展開に雪崩れ込むあたりも、三人が三人とも同じところを目指していて、おたがいをよく聴き合っているからこそだろう。ベースの思い切ったパターンのつけ方とそれに対応するギターとドラムも、こういう言い方は変かもしれないが、現代的な感じがする。思い切りがいいんだよね。いや、ほんま、かっこいいですわ。最後の最後にまた新たな展開が待っていて、こういうバシバシ場面を変える面白さ、というのはたとえば内橋さんなんかで我々はよく体感していることだと思うが、正直、天才でないとできないことなのだと思う。この三人への今後の期待がめちゃくちゃ膨らむ瞬間でありました。4曲目は2曲目と同じくリミックスで、異界に連れていかれるようなヨシガキルイのギターがなんともいえない雰囲気を醸し出している。リミックスの腕もすばらしいよね。ラストの5曲目は「モエラド」という大阪にあるライヴハウスと同じ名前の曲。けっこうハードなゴリゴリの曲で一瞬で終わる。アルバムの最後にふさわしい演奏。何度も聴いたが、サックスが入っていないアルバムはまず聴かない私が、十数回聴いているというだけでもめちゃくちゃすばらしい内容だと思ってもらって間違いないです。それにしても最近の野乃屋レコーズのリリースのクオリティの高さはびっくりする。すごいぞ、野乃屋レコーズ! 傑作。
「GRAVITY SPIRITZ VOLTA CIRCUS」(HYOUTAN RECORDS HTー001)
LOUI YOSHIGAKI
音楽とか小説をジャンル分けするな、という意見が多く聴かれるが、まあ、コウモリ小説家としてはどっちでもええと思っておりまして、専業というか、たとえばミステリしか書かない、SFしか書かない、時代小説しか書かない……というひともたくさんいて、そういうひとはいわゆる「エキスパート」なので間違えたりすることはなく、知識も豊富なのである。私はジャンル小説とともに育ったし、ジャンル小説が好きなので、ジャンル小説やジャンル音楽に対する敵意を見聞きすると「おい!」と思う。でも、自分ではあんまりそのジャンルに関する知識はないのだ。なんやねんおまえは! しかし、このヨシガキルイのアルバムに関しては、ジャンル分けはまーったく無意味だろう。ヨシガキルイとしてのファーストソロアルバムという位置づけ。さまざまな楽器が使われているが、基本的にはギターをメインにすえ、自分の音楽を押し出そうとしているように思う。音色のチョイスもさまざまで、曲調もさまざま。しかし、不思議に統一感があるのはこれがヨシガキルイというミュージシャンの今の全景だからだろう。このひとは小手先の一瞬をつづる、というより、なんというか、世界観というか物語性というか、とても大きな「なにか」を描こうとしているように思われる。一種の「絵巻物」のような1曲目「・律・」でそれを感じた。いや、もう、この1曲目だけでアルバム1枚……でもよかったかも、と思うぐらい手応えがある。2曲目はダンサブルな変拍子にもかかわらず、古いアメリカのキャバレーとかダンスホールのような雰囲気で貫かれている。3曲目はタイトルが「ホトトギス」で、思わず笑ってしまいました。なんのこっちゃねーん! オリエンタルとライナーにはあるが、演歌みたいな雰囲気もある曲で、反復によってじわじわと盛り上がっていくあたりがとても魅力的。ものすごくコントロールされている。4曲目「やさしい人は殺される」はフォークミュージック的な曲。たぶん、バンドだったらまた別の表現方法があったりするのだろうが、ここにこの曲が入っているというのはうれしいことです。たぶんライヴだとこんな風に声にエフェクトをかけずに生声で歌うだろうから、もっとフォークっぽくなりそうだが、それも聴いてみたい。5曲目はジョー・パスに捧げた曲だそうで、1曲目にしてもよかったくらいのギターミュージック。太い音と太いリズム。6曲目は10拍子のキャッチーなリフのテーマが印象的なかっこいい曲でリズム(とリフ)はその後もいろいろ変わっていき、それがひとつの大きな流れというかドラマを作り出している。1曲目でも感じたが、ヨシガキルイの音楽にはこういう「ドラマ性」があって、ここではたったひとりで演奏しているにもかかわらず、小手先にちまちまならず、長い組曲を聞いた手応えがある音楽が作り出されているのは驚きである。7曲目は即興だそうだが、こういう演奏に関してはこのひとは手練れなので、手探り感はまったくない。弾きたいように弾いている。8曲目は変態的マーチで吉田野乃子が参加しているが、一瞬で終わる凝縮された演奏。9曲目はまたフォークっぽい弾き語り。「言葉」にしないと伝わらないと思ったのだろうな。10曲目は睡眠と覚醒の繰り返しを表現したということだが、まさにそんな感じのサイケデリックな演奏で、めちゃくちゃ気に入った。寝起きってこんなもんだよね。共感。11曲目は2本のギターを重ねた即興。本人もデレク・ベイリーの名を挙げているように、単音でじっくりとひとつの世界を少しずつ少しずつ作り上げていく。12曲目もたぶん即興でこちらはかなりギャオッー! と来るやつ。テンションは最初から最後まで高いが荒い演奏ではなくじつは細かいところにまで気が配られている。こういうのはエレクトリックギターならではですね。ラストの13曲目は牧歌的で、ファット・ア・ワンダフル・ワールドのような大きくなごやかな世界を描いたインストで、これをアルバムの最後に配置したのはしめくくりという意味でよかったと思う。全編、ヨシガキルイのさまざまな引き出しを見せつけられた思いだが、それがちぐはぐに感じられず、ひとつの流れのなかで有機的に結びつくように聴き手のまえに展開していくことに驚かされた。すばらしいです。なによりかっこいいし楽しい。どれがタイトルでどれがバンド名かよくわからんので、一応、アルバムタイトルが「サーヴァイヴ・スキルズ/ユニヴァーサル・プレイヤー」ということにしておく。何度も繰り返し聴ける傑作。
「DIRECT CATCH」(HYOTAN RECORDS HT−002)
KATA−INU
全曲いいですねー。ギターのヨシガキルイとサックスの吉田野乃子のふたりによるデュオチーム「固犬」のデビューアルバム。ギターとサックスという組み合わせ、しかも、どちらもフリーな音楽性のひとなので、そういったいわゆるインプロヴィゼイションを主体としたデュオになるのかなあと思っていたら、まったく逆で、ものすごく作り込まれたコンポジションとアレンジがベースにあり、そのうえでふたりの自由な演奏がいきいきと活躍するような楽しすぎる音楽だった。しかも、1曲ごとに違う顔というか個性を見せてくれるので、ついつい最後まで一気に聴いてしまう。これはこのふたりが(音楽的に)よほど噛みあっているということでしょう。1曲目はハードロック的なテーマ→フリーな部分→軽快で美しいワルツ→テーマというような組曲的な構成がドラマチックで、いきなりガツンとくる。最後に変な叫び声が入ってます。2曲目はルーパーなども駆使したひたすら美しいメロディがいくつもの川のように流れ込んできて、交わり、その川幅を増していくにつれ、川の水の色も変化していく……みたいな感じの曲(この文章を書いたあと、吉田野乃子のライナーを読むと「(羊蹄山から)湧きだした水が川となって流れていくような情景」「いくつもの川が合わさって海に流れていく」などと書かれていて、ありゃまー、となった。私はインストゥルメンタルの演奏で演奏者がなにかを表現しようとしていたとしても、そんなものはぜったいに聴いてるものには伝わらない、伝わるはずがない、と日頃は思っているのだが、この曲に関しては見事に伝わってしまったようである。ヨシガキルイのギターの音色がなんともいえない快感だ。3曲目は、太い音のギターとサックスのそれぞれのリフがちょっと対位法みたいになっていて、そのずれがポリリズミックな雰囲気を生んでいる。そのあと、第2テーマといったらいいのか、ユニゾンでプログレ的な超絶むずかしい長いラインをばっちりハードボイルドに決め、そこからギターのリフに乗ってサックスのノイジーなソロ。そのあとリフのときに耳元でだれかがなにかをささやいているのだが、おまえはだれや! なにを言うとんねん! と怒りたくなる(嘘)。そしてまた最初のテーマ→第2テーマ……という構成のこれまたドラマチックな曲だが、全体を貫く印象はひとつである。4曲目は変な詠唱みたいなのの組み合わせではじまる。そして、突然民族音楽みたいな感じでドラム(ヨシガキルイが叩いているらしい)とクラリネット(ヨシガキルイが吹いているらしい)と低音中心のアルト(吉田)などなどがからみあってひとつになっている。そのからみかたはけっこう緩くて、すぐにばらばらになりそうなのだが、どうしてどうして最後までからみあったままなのである。めちゃくちゃいい演奏で、何度もリピートして聴いた。5曲目はいかにもヨシガキルイが好きそうなメロディである(などと決めつけて申し訳ないが)。コンポーザーとしての才能を感じる名曲。テーマのあとはフリーなデュオになり、そこも聴きものである。力で押しまくる演奏ではなく、揺蕩うような感じで、とても心地よい。場面転換が何度もあり、そのたびに黒板を消したような新鮮な気分になる。6曲目はヨシガキルイと吉田野乃子の共作という風にクレジットされているが、即興デュオではない(完全なフリーの演奏の場合、参加した全メンバーが作曲者としてクレジットされるのが普通だ)。きちんとしたコンポジションをふたりで作ったということらしい。基本的に、プログレ的なハードな部分とエキゾチックなパートに分けられるが、そのふたつが見事に噛み合って、ひとつの流れを作り出している。すごくいい曲だと思う。7曲目は変なしゃべり(?)が冒頭にあって、そのあとはハードなリズムが提示され、それからフリーになる。ヨシガキルイのドラムが中心に座っている。8曲目はエキゾチックな曲調ではあるがメロディラインはなかなか一筋縄ではいかない。微妙にひねられていて、その部分が耳に残る。名曲だと思います。ラスト9曲目は「幻の犬」という意味深なタイトルがついた吉田野乃子の曲。冒頭、サックスの低音の吹き伸ばしがずっと続いていて、それをバックにしてギターが自由にソロを弾く。そこにサックスがかぶさってきてユニゾンの変拍子リフになる。この展開は本当にすばらしい。一旦フェイドアウトして、4分30秒ぐらいから突然別の曲がはじまり、きっちり終わる。不思議な構造をもった曲。聴き終えるとちょっときょとんとなる。ラストナンバーにしてこの置いてきぼり感もいいですね。全体にそれぞれのソロとかアンサンブルとか分けられない演奏で、すべてが融合し、融解し、溶解している。どういう演奏か口に出して(あるいは文章にして)説明するのは困難で、とにかく聴いてもらうしかないタイプの音楽。ライヴだとたぶんもっとべつの展開になりそうだな、という曲もあり、今後の固犬の動きから目が(耳が)離せない。傑作! 対等のグループのようだが、先に名前の出ているヨシガキルイの項に入れておきます。