akihiro yoshimoto

「64 CHARLESGATE」(地底RECORDS B102F)
YOSHIMOTO AKIHIRO QUARTET

吉本章絃さん率いるカルテットによるアルバム。テナー、トロンボーン、ベース、ドラムの、一見すると普通のピアノレスカルテットのようだが、作り出すサウンドはそういったいわゆるハードバップ的なものではなく、さまざまなジャズの、いや、それ以外も含むさまざまな音楽の要素が感じられる。しかし、それをごった煮的にぶち込んでいるのではなく、整然と構成しているので、どの曲もひとつのしっかりしたストーリーというかドラマがあり、そしてその狙いが見事に当たっている。即興というかフリーフォーム的な要素も多分にあるが、それが中心ということはなく、それもこの音楽を後世する一要素という感じ。ニューオリンズっぽいマーチングの雰囲気ではじまる1曲目も、それぞれのソロを経て、あれよあれよと別の世界に連れていかれ、そしてまた戻ってくる。2曲目は5拍子のリフを主体にしたテーマのあと、吉本のソプラノとベースがたわむれるような即興を展開したあと、ふたたび5拍子のリフになり、トロンボーンが力強いソロを。3曲目は、シンプルなのに一度聞いたら忘れられないような音列をひたすら繰り返すだけの超短い曲。すばらしい。こういうのが入ると、全体が俄然組曲っぽく感じられるようになり、私は好きです。4曲目はかなりジャズっぽい曲で、吉本のテナーも柔らかい音色で硬質なプレイを繰り広げる。治田のトロンボーンは完全に武器と化して、こちらの胸や腹などの急所を狙って攻めてくる。ドラムソロでフェイドアウト……というか、なんというかパサッと終わる。5曲目はソプラノとベースとドラムのトリオによるインプロヴィゼイション。でも、ものすごく「ジャズ」っぽく聞こえる。6曲目は、ほぼビート感のない即興が続くが、最後の最後に弾けるようなかっこいいテーマが奏でられてエンディング。7曲目もめちゃくちゃかっこいい曲で、リーダーの作曲の才能がひしひし伝わってくる。8曲目もほんと、ええ曲。「オーシャン」というタイトルだが、私には大河の流れのように感じられた。この曲も3曲目同様短いテーマだけの演奏だが、強烈な印象を残す。9曲目は、テーマはノリノリなのだが、ソロに入るとけっこうぐちゃぐちゃになる、という例のやつです。トロンボーンの的確かつ爆発的なソロとそれにからみつき、あおりまくるベースがすばらしい。10曲目は1曲目の別テイク(?)。ええ曲やー。
 独創的かつかっこいいコンポジションといきいきした自由なソロが全編にわたって繰り広げられ、圧倒的な実力ありまくりのメンバーが自己主張しつつ他のメンバーをプッシュしまくりながら全体としてひとつのものを作り上げている。しかし、こういうことは凄腕のメンバーをそろえればいつでもうまくいくわけではなく、音楽性というか音楽観に共通項があるミュージシャンの人選が重要だと思うが、このバンドはさすがにリーダーの慧眼によって、すばらしいグループ表現が成し遂げられている(なにをおおげさな、というかもしれないが、すごいメンバーをそろえているのにどうも噛み合ってないようなバンドはたぶんいっぱいあるだろうと思う)。吉本さんは80年生まれで、ドラムの林頼我(1999年)、トロンボーンの治田七海(2001年)、ベースの富樫マコト(2001年)だから、20歳ぐらい下の世代のミュージシャンとのバンドということになるが、いやー、ばっちりですね。きっとこの三人はこれから変化していき、どんどんすごくなっていくのだろう。それはもう痛いほどわかった。それも含めて吉本さんの本作品の意味合いなのだ。傑作。