lester young

「A PORTRAIT OF LESTER YOUNG 1936−1940」(CBS/SONY 20AP 1448)
LESTER YOUNG

 絶頂期の吹き込みを集めたレスター・ヤングの作品集。なにしろジャケットの絵が大好きなので、こればっかりはLPで持ってるしかないなー。どの曲も、レスター・ヤングの流れるように巧みで、歌心とウィットにあふれ、トリッキーなアイデアにも満ち、かつ、くつろぎとドライヴ感をあわせもつ、信じられないほどの高みに達したすばらしい演奏が聴ける。音が小さいとよくいわれているが、これぐらい芯があって楽器が鳴っていたら、おそらく今の録音技術で録音したら、かなりしっかりした音に聞こえると思われる。これだけの管楽器が一斉に吹いており、マイクも1本〜数本しかなかったと思われるような録音で、くっきりと彼の音は轟いているからだ。劇場にマイクがなかった、あるいは少なかったような時代、ビッグバンドのなかではっきり自分の音を主張するためには、今からは考えられないぐらいのビッグトーンで吹かなければならなかっただろうし、コールマン・ホーキンスやベン・ウエブスター、ハリー・カーネイ……といった人々はその「でかい音」自体を売り物にしていたのだろうが、レスターの音の大きさは、たぶん今だったら「普通」だったのではないかと思う。小さい小さいって言い過ぎなんですよ、みんな。それはホーキンスとかと比較しての話だからな。とにかく全16曲、レスターに関しては悪い曲はゼロ。どれも名演ばかり。しかも、ほかのメンバーも名手ぞろいで泣ける。A−1の「シューシャインボーイ」のソロ(なんと初録音! 天才!)、A−4の「レディー・ビー・グッド」やA−7「フェン・ユー・アー・スマイリング」などでのソロなどを聴くと、知ってるフレーズがあちこちで出てきて、ああ、こういったフレーズの開発者はどれもレスター・ヤングだったんだなあと納得する。コールマン・ホーキンスだと、あんまりそういう感じはしないもんね。つまり、アドリブを「フレーズの連続」としてとらえると、レスターの偉大さがわかるというもんです。ジミー・ラッシングやビリー・ホリディの歌も聴けてお得。B面はカウント・ベイシー・オーケストラでのフィーチュアリング・ソロイストとしての吹き込み。たとえばB−1の「タクシー・ウォー・ダンス」などは冒頭いきなりテーマもなにもなしにレスターのソロがフィーチュアされて、そのあとアンサンブルが出てくるという趣向。ソロを分け合っているバディ・テイトと比較するとたしかに音は軽く、細いが、「小さい」とは思わんなあ。B−2は、珍しくバリトンの名手ジャック・ワシントン、リードアルトのアール・ウォーレン、そしてレスターとテイトとサックスセクション全員がソロをする。B−3「クラップ・ハンズ・ヒア・カムズ・チャーリー」やB−4「ティックル・トゥ」のレスターのドライヴしまくる豪快なソロは本当にかっこいい。これこそ「ブロウしてる」って感じです。B−7の「イージー・ダズ・イット」でのプレスのソロは、低音からはじめるトリッキーなフレーズを積み重ねるというアイデア勝負のもので、その低音の出し方がまた、なんともいい音色なのである。ベニー・ウォレスの先駆的ソロ……なんちゃって。あと、言わなきゃならないのは、バディ・テイトもすごくいいソロをしてるということで、しかも、テイトのソロもどっちかというとレスター・ヤングっぽいものになっているのは、影響されてるということか。ハーシャル・エヴァンスが抜けた(死去)とはいえ、テイトの参加はそれを補っており、この時期のベイシーオケが超充実しきっていたことがわかる。名盤。

「PRES ON KEYNOTE」(MERCURY EVER−1021)
LESTER YOUNG

 ジャケットがいいっすねー。このアルバムはずっと私の部屋に飾ってあるのです。A面がピアノにジョニー・ガルニエリ、ベースにスリム・アンド・スラムのスラム・スチュアートが入ったカルテット、B面はベイシーがピアノを弾いたカンサスシティ7という小編成による演奏ばかりなので、レスター・ヤングのロングソロがたっぷりと聴けてうれしい。ベイシーオケのものだと、いくらいいソロでもちょこっと出てくるだけだからな。昔からの愛聴盤だが、「プレス・オン・キーノート」といえばこの1曲目の「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー」(2曲目は別テイク)で、このテーマの吹き方だけでもかっこいいよねー。ソロももちろん最高で、惚れ惚れする。「アイ・ネバー・ニュー」も、無伴奏のイントロからしてすばらしいし、ソロも独特のアイデアをソロの最中にうまく展開していく、というその鮮やかさ、大胆さには舌を巻かざるをえない。3曲目の「アフターヌーン・オブ・ア・ベイシー・アイト」ではホンキングも聴ける。カルテットなので、毎曲スラム・スチュアートのおなじみのアルコ+ハミングみたいなソロがフィーチュアされるのだが、これが嫌だというひともいるかもしれないが、私には邪魔になっているようには聞こえない。A面の演奏はとにかく全部名演。しかも、こうして聴くと、やっぱり音は太いし、大きいと思うけどなー。B面に入ると(じつはあんまりB面は聴いたことない。今回もじつに新鮮でした)いきなりこれはもうベイシーの世界観だ。B−1のレスターのソロは自由自在というか変幻自在というか、低音からはじまるトリッキーなフレーズをはじめ、やりたい放題。しかも、しっかりした構成になっている。B−2も、とにかくひとつのアイデアを即興的にしっかり発展させるやりかたで、一種のアクロバットなのだが、それがじつにうまくはまっていて、聴き惚れる。ラストのテーマでサビ前から出てくるところなどもかーっこいい! B−3のソロもピアノのあとに出てきてからはぐんぐん凄みを増していくし、4曲目のソロもさまざまなアイデアが突っ込まれていて、見事の一言。ついでながらバック・クレイトンもじつにうまい。このころはシンプルでかっこよく、ほんといい。というわけで、これも名盤ですなー。

「LESTER YOUNG AND THE KANSAS CITY 6」(COMMODORE RECORDS GXC3145)
LESTER YOUNG

 このアルバムはレスターのアルバムとしてははじめて買ったもので、大学生のときだ。なにがよいのか最初はさっぱりわからず、そういうときの常として、「しつこく聴く」ということを毎日試みているうちに、なんとなく面白さがわかってきた。今でも(とくにA面)はだいたい覚えているなあ。レスター・ヤングの良さがいまひとつ最初はぴんとこなかったわけは、おそらく本作に入ってる演奏が、スモールコンボとはいえ、3管編成なのでレスターのソロスペースは短く、なんとなく聞き流してしまうためだと思う。「プレス・オン・キーノート」のカルテットとかなら、ひとりでかなりのロングソロをしている曲ばかりなので、さすがに私でも「これはすごい」と気が付いただろう。というわけで、面白さがわかるまでに時間はかかったものの、おかげでこのアルバムに親しむことができてよかった。A面は「カウントレス・ブルース」という曲が入っていることでもわかるように、カウント・ベイシーのいないベイシーコンボで、つまりピアノレスである。その分、フレディ・グリーンのギターが活躍しており、各ソロイストのバッキングでも重要なコードワークを行っている(なお、ギターソロも入っているが、これはトロンボーンのエディ・ダーラムのエレキギター)。しかも、「ゼム・ゼア・アイズ」では歌も歌っていて、これがめちゃめちゃうまい。肝心のレスターはどうかというと、さっきも書いたようにソロスペースが短いのと、クラリネットを吹いている曲が多いのだが、このクラリネットがものすごくいい味を出しているのだ。レスターは晩年のヴァーヴ盤でもクラを吹いており、最期まで愛着を持っていたようだが、このころのレスターのクラリネットは名手というにふさわしい技術と歌心があってすばらしい。一見素朴な感じだが、テクをひけらかさないだけで、じつはテクニックもちゃんとある。A面の最後に入ってる「ベギン・ザ・デヴィル」というブルースはいかにもカンサスシティのブルースといった雰囲気で、あの「カンサスシティジャズの侍たち」の全編を通して感じられる空気がここにもあって最高です。B面はフレディのギターが抜けて、ジョー・ブシュキンのピアノが入るが、おんなじような雰囲気。ただし、年代はA面の6年後でありバップ全盛のころの吹き込みだが、リラックスした演奏ばかりで美味しい。レスターのテナーはまったく快調そのもの。B−4のトリッキーなフレーズなど、思わず耳をそばだてる効果がある。たいしたおっさんやで、こいつは。カンサスシティ的なリフの曲が多いが、3管でビッグバンドっぽい迫力を出している。B−5と6は「アイ・ガット・リズム」で、レスターはテーマも吹かず無伴奏からいきなり奔放なアドリブを吹きまくり、きっとライヴではこういう風に一晩中吹きまくってたんだろうなと思わせる。ほかのメンバーもやや荒いが、魅力的な演奏を繰り広げていて楽しい。結局テーマは出てこない。B−7,8は「4時のドラッグ」というなんだかヤバそうな曲名。トロンボーンがワンホーンで奏でるテーマ(というかアドリブ)は物憂げで、ブルージー。ピアノソロを挟んでこれまたダルい感じのレスターのソロが現れる。ええ感じやなあ。バラードのようでブルースで……。これはつまりテーマなしのスローブルースなのだが、こういったアンニュイな表現はいかにもカンサスシティの深夜の酒場で煙草の煙と非合法(?)ウイスキーの匂いのなかで奏でられているようですばらしいです。

「LESTER WILLIS YOUNG,PRES/THE COMPLETE SAVOYRECORDINGS」(ARISTA RECORDS SAVOT 2202 0798)
LESTER YOUNG

サヴォイのレスターの2枚組。全部で35テイク入っているのだが、曲としては15曲だけで、あとは別テイクである。たしかにレスター・ヤングだと別テイクも聞いてみたい、という気持ちにならんこともないのだが、日頃聴くにはちょっとうっとうしい。たまーにこうして引っ張り出して聴く、ということになる。しかし、メンバーは異常にすごくて、まあ、ベイシーのいないベイシーオケである。ジョー・ジョーンズもフレディもいるし、エド・ルイス、アル・キリアン、ハリー・エディソン、ディッキー・ウエルズ、アール・ウォーレン、バディ・テイト、ルディ・ラザフォード……綺羅星のようなメンバーである。しかし、フィーチュアされるのはレスターのテナーとアール・ウォーレンのボーカルばかり……という超贅沢な造りである。1〜3は「クレイジー・リズム」で、知らなかったがアール・ウォーレンの曲らしい。これは仮説というか、たんに素人がほざいているだけだと思っていただければいいのだが、レスター・ヤングの音が小さいとか柔らかいとかいうのはもちろんコールマン・ホーキンスやベン・ウエブスター、ハーシャル・エヴァンスなどとの比較において、なのだが、こうして聴くと、レスターはテナーの音域を低音から高音まで同じように自由自在に使っている。しかし、ホーキンスたちは中音域から上はともかく、低音はかなりでかい音がガツッと吹くか、もしくはサブトーンで吹くか、であって、レスターはサブトーンを使わず、柔らかな音の低音部も中音域と同じようにすらすら吹いていて、アドリブの「幅」がかなり広がっているように思う。これはどちらがいい、というより、奏者がどこに(なにに?)重点を置いているかによるのだと思うが、ホーキンスたちがテナーの音の音質や迫力に重きを置いていたのに比べてレスターはインプロヴァイザーとしての自分に重きを置いていた、ということではないだろうか……などと、ぐだぐだ言う必要もないほど、ここでのレスターは軽快で、縦横無尽で、洒脱で、しかも迫力があってすばらしい。4〜5は「プア・リトル・プレイシング」で、ウォーレンのボーカルがフィーチュアされる。ウォーレンというひとは「世界最高のリードアルト」と評されたプレイヤーで、リードアルトなど当時はそれほど注目を集めていなかっただろうに(ジョニー・ホッジスでもソロイストとしての面が評価されていたと思う)、すばらしい演奏の数々をオールドベイシーの音盤に刻んだひとだが、ヴォーカリストとしても完璧で、普通はベイシーバンドにはブルースシンガー……と思うところを、クルーナー的な甘い歌声で、しかも、完璧な音程でさらりと歌い上げるスタンダードや小唄は味わい深い。6〜7は「タッシュ」という曲。めちゃくちゃ上手いトロンボーンソロとアンサンブルの対比がフィーチュアされる。レスターのソロもかっこいい。「ジーズ・フーリッシュ・シングス」は1テイクのみだが、これが超すばらしいのです。ハンク・ド・アミコというひとのクラリネットもいい感じ。しかし、なぜかうちにある盤では、A面の裏がD面(B面の裏がC面)になっていて、むちゃくちゃなのである。まあ、ええけど。なので、とりあえず二枚目を出してきて、B面を先に聴こう。B−1〜4は「エクサーサイス・オブ・スウィング」という循環の曲。コジー・コールの小気味のよいドラムに乗ってレスターと相性のいいピアノのジョニー・ガルニエリがここでもイントロからめちゃくちゃすごい演奏をしていて、聴き惚れるしかない。レスターはどのテイクでもすばらしい。ハンク・ダミコのクラリネットやビリー・バターフィールドのミュートトランペットも渋いのだが、やはりガルニエリのピアノが全部持っていく感じ。ちょっとしたリフのキメはあるのだが、基本的にはテーマのない曲。ちょっとデキシー味もある楽しい演奏。テイクを重ねるたびにテンポがだんだん遅くなっていき、リラックスしていくのがわかって面白い。B−5〜9は「サルート・トゥ・ファッツ」というスローブルースで、前の年に没したファッツ・ウォーラーに捧げた演奏だと思われる。そのせいか、ブルースとはいえ、あまりブルーノートを強調せず、さらり、とした演奏になっているが、根本に哀切が感じられる(レスターの音の吹き方はなにを吹いてもブルースを感じさせるのだ)。この曲もテーマはない。また、5テイクのうち2テイクは不完全で途中で切れる。B−10〜11は「ベイシック・イングリッシュ」というカウント・ベイシーに捧げた演奏。テンポもいかにもカンサススウィングという雰囲気だし、ガルニエリのピアノが、ぐっと音数を減らしていて、ベイシーを連想させる。この曲もテーマのない即興で(「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー」の進行か?)、レスターはゆとりのブロウ。なんやねん、このバンドはテーマを書くやつおらんのか! と叫びそうになるが、それで成立してしまうのだがら、ジャズってゆるいですねー。C−1〜6はなんとピアノはベイシー御大登場である。ギターはフレディ・グリーンで、ワンホーンでレスターの至芸がたっぷり味わえる。C−1は「ブルー・レスター」という曲で、マイナーではじまりメジャーに転調する(サビもメジャー)。ベイシーはまさにベイシーとしかいえないプレイ。レスターもほんとうにくつろいだ感じで悠々と吹いている。2〜3は「ゴースト・オブ・ア・チャンス」で、これももう脱落寸前ぐらいのダルーい雰囲気でテナーが奏でられて最高である。巨人やなあ。フレディもバラードなのに4つ切りしかしないわけで、これまたすばらしいです(普通はもうちょっとなんとかしたくなると思う)。C−4〜5は「インディアナ」だが、ベニー・グッドマンのようにいきなり「ドナ・リー」がはじまったりはしない。シャドウ・ウィルソンのドラムが1、3にアクセントをつけるのでなんか不思議な感じではある。C−6は「ジャンプ・レスター・ジャンプ」といういかにもとってつけたようなタイトルの曲だが、聴いてみると、やっぱりな、という速いテンポのテーマのないブルース。途中で、ホンカーがよくやる低音から上がってまた下がるフレーズが出てくる。最初はずっとBフラットだが、ベイシーのソロの最後でFになってレスターの2回目のソロもFである(ワン・オクロック・ジャンプみたいな感じでしょうか)。C−7、8とD−1は「クレイジー・オヴァー」というアップテンポのブルースで、ジェシー・ドレイクスというトランペットとジェリー・エリオットというトロンボーンがフロントで、正直、どちらも全然知らん。調べてみると、前者はかなり有名なひとらしいが、後者はグローヴァー・ミッチェルのインタビューに名前が出てくるぐらいでよくわかりません(でも、ものすごく上手い)。D−2〜4は「ディン・ドン」というめちゃくちゃアップテンポの曲でこうなるとほとんどレスターに関してはバップみたいに聴こえる。ただ、あまりにテンポが速すぎるのか、うまくリズムに乗ってばりばり吹きまくる箇所もあれば、ちょっと考えている、というか、つっかえている箇所もある。全体としては迫力のある演奏である。なお、ピアノはジュニア・マンスでドラムはロイ・ヘインズなので雰囲気としてはビバップ感が濃厚で、コジー・コールやシャドウ・ウィルソンと比べるとまったくちがったシャープなリズムである。D−5〜7は「ブルース・ン・ベルズ」という曲でジングルベルをブルースっぽく仕立てたのかと思ったら、ただのブルースだった。ここでもジェリー・エリオットのトロンボーンソロが光っている。ラストは「ジューン・バグ」という曲(?)でミディアムテンポのレスターらしい軽い感じのブルース。いかにもその場で「もう一曲、なにかやる?」みたいなノリで録音したのだと思う。全体に、しっかり準備して録音したというより、なんとなくスタジオに入って「なにする?」みたいな演奏が多いと思うが、それもまたよし。レスターの天才の片りんがうかがえるアルバムだと思います。

「PRES AND TEDDY」(VERVE MG V−8205)
THE LESTER YOUNG − TEDDY WILSON QUARTET

 56年の録音だから、かなり晩年ということができる。ああ、もうヨレヨレの時期ね、絶頂期と比べると悲しくなるよね……みたいな評価もあるのだろう。しかし、本作におけるレスターの演奏は驚くほどすばらしい。絶頂期の、新奇なアイデアをつぎつぎ繰り出して聴き手をアッといわせるような演奏に比べ、ここには深いくつろぎとノンシャランな洒脱さ、飄々としたユーモア感覚などが感じられる。しかも、プレスの音色はじつにしっかりしており、どの曲もけっこう長尺なのにもかかわらず、集中力も途切れることなく、ロングソロを吹ききっている。軽々としたホンキングもあり、バップ的なフレージングも随所にあるが、いずれもレスター・ヤングが発明したものであり、オリジネイターが吹いているのだから説得力はすごい。バラードやミディアムテンポの曲においても、サブトーンや息を抜いたか細い音などをまじえての繊細なその表現力の振幅はすばらしい。1曲目の「オール・オブ・ミー」は名演として知られているが、途中でコードを上から単に吹き下ろす、というのが二小節にわたって続くのが耳につく。二度目のは普通のメジャーコードだが、一度目のは(たぶん)リディアンで、これがめちゃくちゃかっこいい。ベイシーオケや自己のグループなど、ひとまえでの演奏によって叩き上げたミュージシャンによるアドリブの強みだろうと思うが、やはり天才を感じざるをえない。共演者ではもちろんコ・リーダーのテディ・ウィルソンがレスターのフレーズにまとわりつくような、絶妙のバッキングをしていて、ため息が出る。ひとりリズムセクション的なリズム感もすごい。そして、ドラムのジョー・ジョーンズは、レスターのベイシー時代の仲間ということもあるだろうが、正直、私には古臭いドラマーという印象だったが、ここで聴かれるジョー・ジョーンズはブラッシュでアップテンポの曲をびしびし叩きまくったりして、まるでマックス・ローチのようである。ブラッシュのソロもときどき伸びたり縮んだりするが、まるで気にならない楽勝な演奏だ。「カウント・ベイシー」という本でのインタビューを読んでも、めちゃくちゃアクの強いひとだったとは思うが、言行一致ということですねー。ベースのジーン・ラメイもベイシーつながりの人選である。4曲目の「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」は冒頭のアレンジがかっこよくて、スウィング世代のミュージシャンである彼らがこういうアレンジに対応しているのはすばらしいことだと思う。5曲目の「恋のチャンス」というのは「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」で、私のめちゃ好きな曲だが(ワーデル・グレイとかスティットとか……)、ここではテディ・ウィルソンのショウケースとしてスタートし、レスターは出てこないのかな、と思っていると二番手のソロイストとして登場する。このソロが絶妙で、リラックスというのはこの演奏のためにある言葉か、と思うぐらい。鼻歌みたいな感じで、作為みたいなものがほとんど感じられない演奏。テーマを崩しながら歌う。これぞレスター・ヤング。最終コーラスのサビの部分など、感涙です。6曲目の「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」も名演で、ミディアムテンポでレスターが歌いまくるソロにテディのピアノがからみつく。レスターのソロは、本当にその場で思いついた感じの「即興」だと思われ、こういう姿勢が、本人がどう思っていたかはさておき、バップにつながっていったのだろうと思う。レスターは、(うろ覚えで申し訳ないが)「ひと前で試さずにどこで試すんだい」というような発言をしていたようで、これはまさに落語家が、家でひとりで練習していても上達しない、客のまえで演じることが重要だ、というのと同じである。ラストの7曲目はボーナストラックだが、これも見事なファンクな演奏で聞き惚れる。晩年のレスター・ヤングはかくも凄いのだ。傑作です。

「LESTER YOUNG WITH THE OSCAR PETERSON TRIO」(VERVE RECORDS/UNIVERSAL MUSIC COMPANY UCCU−8204)
LESTER YOUNG WITH THE OSCAR PETERSON TRIO

  日本盤ライナーによると油井正一はこのアルバムにおけるレスターの演奏は「絶頂期」からは比較できないものであり、「当時のレスター・ヤングにそれ以上のものを求めては酷」と言っていたそうで、あー、わかってないなー、油井正一は……という認識を新たにした。たぶん収録時間の短い演奏における凝縮されたソロと、こういう長尺の録音における奔放なソロの違いがわからないのだろう。レスターがそんなダメになっていたら、こういう風にずーっとおんなじ濃密さですごいフレーズを積み重ねていくような演奏ができるはずもない。どの曲もオープニングからエンディングまでアレンジもよく練られていて、レスターもきっちりそれをこなしている。一曲目の「アド・リブ・ブルース」というのはレスターのシャレオツなフレージングが味わえる一曲で、自然体でしかも軽々とリズムに乗るレスターの演奏が楽しめる不思議なことにこの曲だけ、レスターがかなり前ノリというか、1拍、3拍にアクセントを置くような吹き方をずっとしている。その吹き方が独特のノリを作り出しているが、もしかしたらチャーリー・パーカーの不思議なノリもこういう演奏に影響されたのか……とか考えながら聴くのもまた一興(だって根拠ないからね)。以下の演奏はかつてレスターが吹き込んだ有名曲やスタンダード、バラードなどが中心で、オスカー・ピーターソントリオの演奏もやや過剰と思うひともいるかもしれないが、私には晩年のレスターを引き立て、鞭打ち、往年の輝きを取り戻せと叱咤しているようで好ましい。この2曲目以降はかなりアップテンポの演奏であっても、レスターはいつものようにレイドバックした吹き方をしている(かな?)。どの曲もレスターがものすごいアイデアの数々を奔流のように吹きまくっているので驚く。ピーターソンがこれ見よがしのテクニックを見せつけるような弾き方をしてもびくともしないぐらい、いろいろな意味ですごい。なお、ジャズ批評社から出ていた「JAZZテナーサックス」という本のこのアルバムの紹介文に「別格的な美しさ! バラード中心」と書いてあるが、冒頭から3曲、アップテンポの曲が続き、4曲目もミディアムの熱い演奏なので、あんまりバラード中心という印象はないです。5曲目の「ジーズ・フーリッシュ・シングス」はサブトーンを駆使したすばらしいバラードだが、ボーナストラックなのでつぎの「アイ・キャント・ゲット・スターテッド」が初バラードということになる。ギターのイントロからはじまり、サブトーンとビブラートによる表現力の凄さが聞ける。ピアノとドラムは休みで、テナー、ギター、ベースによる演奏。こういう演奏にモダンジャズ以降のテナー奏者はたぶん大きく影響されているような気がする。7曲目はおまちかね(?)の「スターダスト」で、(モダンジャズ以降のテナーならたぶんそうするであろう)倍テンとかにならない、まさにジャズバラードの美しさが極まった感じの演奏。短いカジンツァも見事。こういう演奏を聴くと、レスターについてよく言われる「テーマを崩すのではなく、まったく新しいメロディを即興的に乗せる」というのはこれだよね、と思う。8曲目は「サニー・サイド」で、ミディアムの曲。独特のフレージングは癖になる。オリジナリティというのはこういう演奏のことを言うのだろう。真似のしようがない、個性の極みだ。9曲目もミディアムの曲で「オールモスト・ライク・ビーイン・ラヴ」(某ビッグバンドで私もよく演奏しました)。このノリは、やはりレイドバックした、後ろへ後ろへくる感じで、めちゃくちゃ心地よい。10曲目は「アイ・キャント・ギヴ・ユー・エニシング・バット・ラヴ」でこれもミディアムテンポの演奏だが、ボーナストラック。こんな風なテーマの吹き方ができるのはレスター・ヤングだけでしょう。11曲目は「アナザー・ユー」だが、めちゃくちゃかっこいいイントロも含め、本来はこういうバラードとして演奏される曲なのだろうか。今は、たぶんミディアムテンポの曲という認識になっているように思う。いやー、これこそ「歌い上げ」というやつでしょう。この曲のテーマからこういう新しいメロディを産み出すレスターの至芸。随所にテーマを感じさせながら変奏していく……こういう演奏がモダンジャズに……ってさっきも書いたか。短い演奏だが、すばらしいです。12曲目もボーナストラックでバラードだが、テーマのあと倍テンになる。しかし、レスターはダルいノリを崩さないし、曲の美しさも保たれたままだ。ラストの「トゥー・トゥー・タンゴ」もボーナストラックなのだが、な、なんとレスター・ヤングのボーカルが聞ける。なんというか、ジャンプミュージックというかルイ・ジョーダン的なものまで感じさせる洒脱な演奏で、一旦終わってからブースとのやりとりが入っているのも楽しいし、そのあとまた演奏が再開してからのノリもすばらしい。さすがに子どものころからいろいろなシチュエーションで鍛えまくってきたひとだけあって、声もいいし、音程もばっちり。ボーカリストとしても十分いけると思う。
 ほらね? 13曲中バラードはボーナストラックを含めても5曲目、ボーナストラックを含めないと4曲だけなので、あんまりバラードアルバムとは感じないです。ネットを見ると(見ない方がいいのかもしれないが)本作についてわけのわからん評価が書いてあったりするので、まずは自分の耳で聞いてみましょう。ピーターソンはもちろん、バーニー・ケッセルもJ・C・ハードも貢献大だと思う。レスター・ヤング晩年の大傑作だと思います。