「SANHEDRIN」(TZADIK TZ7346−2)
MASADA 1994−1997 UNRELEASED STUDIO RECORDINGS
これはびっくたしたなあ。スタジオ録音の、未発表を集めた二枚組、ということで、落ち穂ひろい的なものかと思っていたら、1枚目の一曲目から2枚目のラストまで、息もつかせぬ演奏がぎっしり詰まっていて、興奮また興奮。メンバーはとにかく豪腕の猛者ばかりなので、誰が主役ということもなく、ほぼ均等に力を発揮、というかぐいぐい見せつける。曲はどれも超かっこよく、ジョン・ゾーンの作曲力を示す。でも、なんだかんだいって、「ビバップ」なのだなあ、と感じる瞬間が多い。ジョン・ゾーンのアルトは、たとえばナベサダがどんなフュージョンアルバムでもソロはパーカーマナーであるように、ビバップに根ざしたソロが基本である。コードを縫うように8分音符でアドリブをつむいでいく、その歌心とテクニカルなフレーズが同居したソロは、理屈抜きで聴き手の気持ちをうきうきとさせてくれる。中古で買ったのだが、いやはやほんとに得したなあ。これは、たぶん必殺の愛聴盤になるでしょう。
「NAKED CITY LIVE VOL.1 KNITTING FACYORY 1989」(TZADIK TZ7336)
NAKED CITY
ジョン・ゾーン、ビル・フリーゼル、ウェイン・ホロヴィッツ、フレッド・フリス、ジョーイ・バロン……今から考えると、ほんとアホみたいに豪華きわまりないメンバーだ。しかし、船頭多くして……という感じにはなっておらず、ジョン・ゾーンが彼らをバシッと掌握し、強烈なリーダーシップを発揮していることがわかる。とにかくかっこいい。どの曲も、いろんな意味でかっこよく、いろんなタイプの良さが詰まっており、曲ごとにスタイルが変わるので飽きることもないし、ほんと、何も言うことがない名盤だ。フレッド・フリスがベースだけ、というのも贅沢だなあ。昔は、軽い感じに聞こえて嫌いだったジョーン・ゾーンのアルトも、今ではすっかり好きになってしまった。何度聴いても、そのたびに元気が身体のなかに注入されるがわかるアルバム。音色もプレイも、こういうセッティングのジョン・ゾーンは梅津さんと似てるかも。ジャケットもかっこよくて、ほんと「かっこいい」を連発するしかないアルバムです。
「THE DREAMERS」(TZADIK)
JOHN ZORN
二回聴いて、しばらく時間をあけてもう一回聴いたが、うーん……トータルミュージックだなあ。ディスクユニオンの新譜紹介の文章には「(ジョン・ゾーンの)生涯の音楽観とあらゆる音楽──ワールドミュージック、サウンドトラック、ジャズ、ミニマリズム、ファンク、サーフロックなど──とを混合させた音楽によるおとぎ話のような作品となっており、名作 ”THE GIFT”の流れを受け継ぐものとなっております」とあった。たしかにそのとおりだが、ジョンはほとんどサックスを吹いていないので、結局、私のような「サックスがギャーっといってるのを聴きたい」というだけの人間には、肝心のところではぐらかされた感じになる。おそらく百人のリスナーがいれば99人までは絶賛するほどの内容で、曲はどれもよく、演奏は(なにしろメンバー凄すぎ)最高、トータルアルバムとしても大きな世界が構築されている……というわけで、文句のつけようはないが、唯一、サックスの出番が少ないというのが不満なのだった。ちなみにアルバムデザインもすばらしく、シールもついていて、めちゃよかった。なにしろ紙ジャケットの裏側(CDが入っている部分)の裏側にまでイラストが印刷されているのだ。すべての点にわたって完璧に作り込まれた作品。
「LATE WORKS」(TZADIK TZ7634)
JOHN ZORN/FRED FRITH
最近はコンポジション、プロデュースのほうに行ってしまったのかなあ、と思っていたジョン・ゾーンだが、本作はアルト一本で勝負したガチンコの演奏である。しかも、相手はフレッド・フリス……とくれば、これは聴かないわけにはいかないっしょ。いやー、思った通り、めちゃめちゃいいですなー。ジョン・ゾーンはあいかわらず、アルトをフルトーンで鳴らしているが、そのペラペラの音(といっては申しわけないが)がフリスのギターにベストマッチしていて、最高である。サックスとギターのデュオという形態だと、どんなことでもできる。フリーな展開にも対応できるし、リズムは4ビートでもバラードでもロックでも自由である。曲のアイデアもいいし(ええ曲を書くんだよなあ)、即興の曲もあるのだろうが、それもまた、はっきりした明確な演奏テーマに基づいているので、聴いていてスカッとするのである。しかも、どこへ行くかわからない危惧もつきまとい、そのあたりの危うさもちゃんとキープされている。これらは決してネガティヴな意味でいってるわけではなく、サックスとかギターを、こういうときにこういう風にやればかっこいい、心地よい、ということを熟知しているからこそできることなのだ。それを予定調和と呼ぶならそれでけっこう。すべては「センス」の問題なのだ。このデュオにはそういった意味でのセンスがあふれている。
「THE BIG GUN DOWM」(TZADIK TZ7328)
JOHN ZORN PLAYS THE MUSIC OF ENNIO MORRICONE
ジョン・ゾーンによるエンニオ・モリコーネ集にすごいオマケをプラスした完璧盤。じつは聴くのははじめて。期待していたようなものとはちがっていたが、これはこれですごくよかった。なにを期待していたかというと、マカロニウエスタン好きのジョン・ゾーンによる、もうすこしストレートなテーマ集かな、と思っていたら、曲をモチーフにした大胆な解釈による、かなり過激な演奏だった。しかも、オリジナルのマカロニウエスタンの雰囲気はどこかに残っているという絶妙の離れ業。アレンジは凝りに凝っており、ボーカルやさまざまなSEなどのエフェクトが随所に効果的に使われていて、マジックをみているようだ。あまりに才能が爆発していて、トゥーマッチに感じるほど。これはすごいわ。メンバーも凄まじくて、コレクティヴパーソネルをざっと書くと、ビル・フリーゼル、アンソニー・コールマン、アート・リンゼイ、ティム・バーン、ウェイン・ホロヴィッツ、トゥーツ・シールマンス(!)、ジョディ・ハリス、フレッド・フリス、ビッグ・ジョン・パットン(!)、ネッド・ローゼンバーグ、佐藤通弘、ヴーノン・リード、クリスチャン・マークレイ……すごすぎるやろ! タイトルにもなっている「ザ・ビッグ・ガン・ダウン」は「復讐の用心棒」の主題歌。2曲目は「ジャン・ポール・ベルモンドの恐怖に襲われた街」の主題歌。3曲目は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」のなかの曲。4曲目は「ミラノ殺人捜査網」という、聴いたことのない映画の主題歌。官能的な女性ボーカルの叫びが濃密でエロすぎてたまらん5曲目は「華麗なる大泥棒」の挿入歌らしい。6曲目は「アルジェの戦い」の主題歌。かっこいい。これは本作のなかでも白眉。7曲目はなぜか三味線と尺八がフィーチュアされたり、口琴が活躍したりとかなり変化球なアレンジだが(といっても原曲を知らないのでじつは忠実なのかもしれないが)「夕陽のギャングたち」という映画の挿入歌らしい。8曲目は、どすんどすんという重たい低音が杭打ちのように過激に響く印象的な演奏。「労働階級は天国に入る」という、よくわからんタイトルの映画の曲らしい。9曲目はなんの映画をもとにしているのかよくわからないが、サウンドコラージュのようなインプロヴィゼイション。10曲目は「ウエスタン」という映画の主題歌だが、2本のギターとハーモニカが挽歌のようなせつないサウンドを延々と奏でる感動のトラック。11曲目以降がボーナストラックだが、11曲目は「シシリアン」の主題歌で、かなり原曲に近いチープなイメージでこれまたよし。ジョーイ・バロンとかマーク・リボー……などの豪華メンバー。12曲目は「炎のいけにえ」という映画の主題歌らしいが、羽鳥美保のヴォイスがすごい。13曲目はマジなボーカルもので、まさにマカロニウエスタンという感じの演奏。めちゃめちゃかっこいい。「明日よさらば」(原題・マシンガン・マッケイン)」という映画の主題歌らしい。14曲目は「目をさまして殺せ」という映画の主題歌らしいが、ジョーイ・バロンの過激な8ビートに乗った、贅肉を削ぎ落としたような直球の演奏だが、なんとギターはマーク・リボーとデレク・ベイリー(!)。ベイリーになにをやらせよるんじゃ、このおっさん! やかましくてすごくかっこいいです。15曲目は「幻想殺人」という映画のなかの曲だが、「プロフェッショナル」でも使われているらしい。しみじみとしたもの悲しいグルーヴの曲を、けっこうストレートに演奏している。ラストは13曲目の「ハンク・マッケインのバラード」のインストバージョン。いやー、すごいですわ。モリコーネというのはここまでバラバラに解体されても、モリコーネなんだよなあ。もちろんそれはジョン・ゾーンのモリコーネ音楽に対する理解と敬愛あってのことだろうが、ジョン・ゾーンの音楽としてモリコーネの曲がまったく新しいものになっただけでなく、こうすることによってモリコーネの音楽性がギラリとクローズアップされるのがほんとにすごいことです。ジョン・ゾーンはなあ……すごすぎるよ。わしゃなんといわれようと(いわれてないけど)本作を応援します。
「LIVE IN JERUSALEM 1994」(TZADIK TZ7322)
MASADA
ジョン・ゾーンのこういう演奏に関してはネイキッド・シティで十分なので、マサダの音楽にはあまり近づかんようにしているのだが(山のようにスタジオ録音がでてるし、メインがアルトだし)、本作はイスラエルでの二枚組ライヴということで、思わず購入してしまった。いやー、かっこいいですね。でも、めちゃめちゃクオリティが高く、曲もよく、パワフルでエキサイトする演奏であることは、聴くまえからわかっているのだ。その意味で、超高水準の予定調和といえるかもしれない。どの曲も、どこかにクレヅマーの香りがするし、場所の問題もあって、なんとなく敬虔なパワー……みたいなものを感じてしまうのは私だけか。ほかのアルバムにくらべて、よりピュアでパワーがあるようにも思うが、それにしてもこの4人の手練の奏でる音は、ライヴなのに一点の乱れもなく、完璧だ。これはすごいとしか言いようがないが、この演奏を聴いて、どうしても思いうかべてしまうのが、梅津さんのキキバンドとカルロ・アクティス・ダートのグループだ。いずれも、超バカテクで、音色が独特のサックス奏者がリーダーで、エキゾティックで一聴耳に残るメロディの曲を演奏し、メンバーは少人数でタイト、しかもリズムが強力で全員一丸となった疾走感がある……というような共通点がある。二枚組なので、聴きとおすのに時間はかかるが、あまりにかっこよく、楽しく、鋭く、ダンサブルなので、しんどさはまったくない。購入してから4回、通して聴いたが、また聴きたい。マサダをまず1枚ということであれば、本作を推薦するのもありかもなあ。
「SPY VS.SPY−THE MUSIC OF ORNETTE COLEMAN」(ELECTRA/MUSICIAN 960 844−2)
JOHN ZORN
はじめて聴いたのは会社入ってしばらくしたころか? LPで聴いたのだ。ジョン・ゾーンとティムバーンの2アルトでオーネットに捧げるアルバムなんて面白いに決まってる! と勢い込んで聞いたのだが、なんじゃこりゃーという印象。スラッシュジャズというのか、当時ジョン・ゾーンがはまっていた表現形態で、はじめてジョンのバンドを見たときもこんな感じだった。でかい音でツインドラムがドドドドドド……と叩かれ、ツインサックスが最初から全力でフリーキーに暴れまくり、ピタッと終わる。ソロがどうのこうのという聴き方を拒絶した、ノイズを濃密に凝縮したというのか……およそオーネット・コールマンの音楽にはふさわしくないやりかたではないのか……と思った。一緒に聴いていたジャズ専門レコード店のマスターも同じ意見だった。しかし、幾星霜を経て、CD化された本作を聴いてみると、めちゃくちゃ面白くてかっこいいので驚いた。同時に、うーん、これはあのころわからなかったのも当然だな、とも思った。しかし、よく考えると、このコンセプトって、オーネットの「フリージャズ」と似ているかもしれない。ソロとバッキング……というようなジャズ的な鑑賞を拒み、すべてが溶け合った状態で、しかもそこにものすごいパワーと熱気を注ぎ込んだ演奏。テープを早回しにしたようだが、じつは人力で行われているこのえげつないまでにテクニックとリズム感を要求され、しかも、個々の音が聞き取りにくく、なにをやっているのかと聞き手が振り回されているあいだに終わってしまう音楽を、なぜジョン・ゾーンとティム・バーンがやったのかはわからないが、とにかく普通の聞き方を拒んでいることはたしかだと思う。全体を聴け、ということなのだろう。こういう演奏をこういう形で配列することによって全体がひとつの流れのなかにあるように聞こえるのだ。そこから得られるイメージがオーネットなのだ……みたいな妄想が頭に浮かんだが、たぶん、そんなことはないだろうな。でも、ハードでノイジーな演奏のなかにアルトの朗々とした音が鳴り響く瞬間は異様な美しさがある。また、エグいリズムが突然スウィングするランニングになった心地よさとか……。そこに耳をもっていかれてはいかんのかもしれないが、やはりそういう風に聴いてしまうです。それにしてもこのふたりはよく鳴る。こわいぐらい鳴りまくってます。いろんな意味で傑作。