「HOW TO RAISE ANOX」(ATAVISTIC ALP168CD)
ZU/MATS GUSTAFSSON
バリトンサックスをフロントにしたフリーロックバンド「ZU」がゲストにマッツ・グスタフソンをくわえたカルテット。グスタフスンはバリトンサックスしか吹いていないので、エレベ、ドラムに2バリトンというえげつない編成ということになる(マッツに関してはテナーっぽい音も聴こえるのだが、バリトンとしか表記がないので、それをそのまま信じるしかない)。まえの、ヴァンダーマークをくわえたアルバムのときもそう思ったのだが、オデオン・ポープのトリオや、ある意味、アルタード・ステイツなどを連想させるような、かなりストレートなファンク〜ロックのリズムに、ぐちゃぐぢゃのバリトンサックスがのっかる、という、ありそうでなかった編成。たとえば、ジョン・サーマンの「ザ・トリオ」なんかとはまったく似ていない(過激さ、過剰さでは共通しているが)。これが心地よいんです。バリトン二本ということで、かなりヘヴィな音だが、フリージャズとオルタネイティヴ・ロック、伊福部明やジョン・ウィリアムスなどの映画音楽、ホラー的な効果音……などなどをごった煮にしたようなサウンドが展開する。バリトンサックスの可能性というのは、まだまだ果てしないなあと思えるような、前向きな演奏ばかりで楽しく、いろいろ刺激も受けるが、どうも私が「おもろいなあ」「すげーなあ」と思う箇所は、どれもグスタフソンが活躍する部分なのが、ちょっと気になる。つぎはZUの3人だけの単独アルバムを聴いてみなくてはなるまい。前に聴いたヴァンダーマークとの共演盤は、ある意味ヴァンダーマーク主導のコラボレーション的な感じも濃かったので、ヴァンダーマークの項目に入れたが、今回は明らかにZUプラスゲストなのでZUの項目に入れた。
「IGNEO」(FRENETIC RECORDS FR024)
ZU
おなじみのイタリアのハードインプロノイズバンドだが、けっこう難しいリフの曲をバシバシキメまくり、ソロもやり倒し、さっと終わる、という印象がある。このアルバムもゲストが入っていて、ヴァンダーマークが2曲、ジェブ・ビショップが1曲、フレッド・ロンバーホームが3曲入っている。ゲストありの曲はどちらかというとハードなリズムのうえに成り立つ即興っぽいが、そうでない曲はコンポジションがしっかりしているものもあって、どちらもおもしろい。バリトンのひとは本作ではアルトを多用しているが、これもめちゃめちゃうまい。1曲目でギターのように聴こえるのは、もしかするとロンバーホームのチェロかもしれない。狂ったようにアルトを吹きまくる。ゲストのいない2曲目はバリトンだがこれはかっちりしたコンポジション。めちゃかっこええ曲。シンプルだが、場面がころころ変わる。3曲目はチェロが入って、アルトによる演奏だが、のびやかなしっかりした音でアルトを吹くなあ。うまい。かなり複雑な曲。ロンバーホームのチェロが絶妙の働きをしている。この曲が本作の白眉か? 関係ないけど、ロック的なリズムがある部分は坂田明グループを連想したりして。この曲も場面がどんどん変わっていく。4曲目はゲストなしで、アルトによる演奏。やや古いタイプのフリージャズトリオ的で非常に好き。ベースががんばっているし、アルトもすごいし、ドラムもめちゃかっこいい。こういう即興とコンポジションの組み合わせは、ペットボトルニンゲンを思い出したりしました。アルトだからかな。5曲目はバリトンで、ゲストのヴァンダーマークはテナー。最初のテーマ部分はバリトンのワンホーンで演奏され、そのあとヴァンダーマークがフリークトーンで乱入……みたいな感じ。かっこええ。バリトンが低音でロングトーンを吹き、テナーが狂ったように吹きまくる、という展開はすごくベタかもしれないが、やはり聞き入ってしまう。ひたすらヴァンダーマークのソロをフィーチュアして終わる。6曲目はゲストなしで、バリトン。リズム的におもしろいテーマ(これはZUの特徴か?)で、ドラムとベースがへヴィにからみながら激しいリズムを押し出す。かっこいいね。オデオン・ポープトリオを思い出したりして。すごく短い演奏で、ほぼテーマのみ。7曲目もゲストなしで、本作中もっともハードな印象の演奏。さまざまな場面があって飽きない。バリトンの無伴奏ソロの部分もある。ベースがファンキーにキメまくる場面や、やけに抒情的な場面など、組曲みたいにも聞こえます。8曲目はチェロが入っての短い演奏。スタイリッシュで思い切りがいい。9曲目はジェブ・ビショップとヴァンダーマークが入っての演奏だが、ゲストのふたりが登場するのは曲の後半から。やっぱりビショップはめちゃくちゃうまいな。トロンボーンをぶいぶい言わせて吹きまくる。技術的にも完璧で説得力がすごい。曲もいいし(かなりの難曲で気を抜けないアレンジ)、言うことない。しかし、ビショップとヴァンダーマークが入ると、急にヴァンダーマーク5みたいな雰囲気になる。最後のほうは本当にヴァンダーマークが書きそうな曲のタイプの演奏になっている。あとの4曲はリミックスで、それぞれべつのひとがZUの演奏を使ってリミックスしているらしいが、4曲目などボーカルが乗っていたりして、かなり別物になっているみたいです。やるなあ。ライヴエレクトロニクスを使ったり、ノイズをうまく使ったり、リミックスしたりするが、このグループの手触りはきわめてアコースティックなグループなのである。不思議。